行天氏は、この包括的な論文の中で、まず、中国経済の目覚ましい発展に注目し、その要因を分析した後に、今後についての懸念をまとめている。成長の要因としては、効果的な中央集権政府の下での大きな人口に拠る豊富な労働力と消費力、そして資源・技術・経営技術の海外からの流入があげられる。しかし、計画経済としての限界、とくに国有銀行の脆弱性や貧富の格差の拡大、急激な成長を支えるための原油をはじめとする資源の確保、そして、政治・社会的自由と経済発展の矛盾、例えば社会保障制度が不備な中で、大きな貧農層がそのまま巨大な失業者層に転じる懸念等、中期的な問題が指摘される。また、短期的には、経済バブルをいかにコントロールできるかが大きな課題である。
人民元については、1997年以降固定されている為替相場に関し、短期的には輸出と外貨準備の急増、特に対米黒字の増加が問題となっていること、また、より深刻な中期的問題として、資源の非効率的配分を促す要因となっていることから、相場の調整は早晩必要になると指摘される。中国政府はこの問題に気付いているようであるが、相場の自由化等々、伝統的にこのような状況を打開するために処方されてきた方式が現在の中国では必ずしも採用できないところが難しい。相場の調整は、好調な輸出を維持しつつ銀行の破綻を回避しなければならないが、これは非常に困難である。
最後に日中関係について、両国民の間には、相互に複雑な心情が存在するが、真の懸念は実は将来にあり、仮に日本と中国が対立した競争状態のままで進むことは、日中両国をはじめ、誰にとっても得策ではない。日本と中国は、世界的にも稀有な長い関係を有する二国であり、その間の様々なしがらみを背負って居ることはやむを得ないが、だからこそ、改めて広い視野に立って対応する必要がある。中国側が果たしてこのような考え方に同意するか否かは明確では無いが、日本としては、中国に対する偏見を解消し、相応の敬意と展望を持って接して行く必要がある。そうすることによって日中両国の長所による相乗効果が生まれ、両国のみならずアジア地域そして世界のために貢献することが出来るであろう、と行天氏は強く提言する。
英語の原文: "The Chinese economy, the Renminbi, and Japan-China relations"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20040524_gyohten_chinese/