世界経済は順調に成長して居り、なかでも日本の景気回復は目覚しいが、その中で最大の懸念は「地政学的なリスク」である、と伊藤教授は言う。原油価格の動向、イラク情勢により米国が不安定になると、世界経済に大きな影響が出る。
好調な米国で大きな話題となっているのが、経常赤字の拡大である。日本からみれば、米国自身が財政赤字を減らすことが一番であるが、米国が、アジア、それも各国事情が異なるにも関わらず、十把一絡げに為替操作を行っていると非難しているのは問題である。しかし今後も当面はドル高傾向となろう。
日本の回復を現在リードしている輸出は、過去五年間のデフレ期間を通じ、企業競争力が高まったこと、対ドルにリンクしていない通貨に対しての実効ベースではそれほど増価していないこと、などにより好調を維持している。
日本にとっての最良のシナリオは、このまま景気回復が続き、中国・米国が減速する前に、景気のけん引役が外需から内需(とくに消費)に移行することである。そのためには、景気回復が本格化して、デフレからの脱却がはっきりするまでは、金融政策は、現行のゼロ金利、量的緩和政策を維持すべきである。それも、心理効果を勘案すれば、デフレの解消に止まらず、日銀は積極的に若干のインフレを目標にすべきである、と伊藤教授は主張する。
英語の原文: "Geopolitical Risks in the Global Economy"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20040614_ito_geopolitical/