I. 郵政民営化の背景
今、日本は少子化と高齢化の問題に直面しており、この問題を解決するために活性政策を取ることを迫られている。そのためには、特に政府部門を改革して、より効率的にしなければならない。このキーになるのが2007年4月から始まる郵政民営化である。現在、郵政公社は日本の預金の4分の1を占めるといわれる360兆円の資金を保有し、約40万人を雇用している。したがって、郵政の民営化でこれらの資金と労働力を活性化させることが日本経済の再生にとって決定的に重要である。それとともに、金融市場と労働市場において持続可能な安全と安心をもたらすことが目標となる。
20年ほど前を思い起こすと、電電公社と国鉄と専売公社の三公社が民営化され、NTTとJRとJTになったが、それがこの10余年の経済活性化の原動力になった。実際にその民営化以降、日本は携帯電話でもインターネットのインフラでも世界のリーダーとなり、その結果としての情報革命はあらゆる分野に活力を与え、規模の経済と生産性の向上をもたらしている。郵政民営化はそれに次ぐ第2弾で、日本経済をさらに活性化させるステップであるといえる。
II. 新郵政ビジネスの多様化
郵政民営化への方向付けが正式に決まったので、これから最も大事なのは実際の民営化の中身である。公的なアナウンスや法的な取り決めで、経営が成功するわけではない。経営がうまくいくかどうかは、経営者、人材の質、経営戦略、実行計画、実現の手立て次第であり、さらに何といっても大きいのが市場の期待と支持である。
民営化によって、持ち株会社の下に郵便貯金、簡易保険、郵便事業、窓口ネットワークの4つの会社が作られことになるが、ここで窓口ネットワークは、持ち株会社のセールス部門のようなもので、郵貯も簡易保険も郵便事業もすべて窓口ネットワークが代理店として販売する。さらに余力があれば、コミュニティのワンストップ・サービスをやって、株式や投資信託の販売、旅行代理店サービス、チケット販売、介護サービスなどのさまざまなワンストップ・サービスを提供することが考えられる。ただし長期的にみて、郵貯会社がその金融サービスの提供を窓口ネットワークの代行でやるか、それとも別途特別な支店を作ってやるかは今後詰めていく問題である。いずれにしても、窓口ネットワークの傘下に入る新しい郵便局は今よりも扱うサービスが多様化し、おそらくコンビニエンス・ストアの経営などを行なうであろう。
III. 今後の問題と展望
郵政民営化を成功させるためにはいくつかの克服すべき問題が残っている。第1は、民間の会社とイコール・フッティングさせることである。そのために、民営化後の郵貯と簡保には政府保証が付かなくなる。つまり、それは新会社が知恵を凝らして魅力あるサービスを提供しなければならないことを意味する。そうできるかどうかが大きな問題である。
第2の問題は、郵政公社が抱えている巨大な数の雇用者をどうするかである。現在全国的には27万人の郵政公社の職員がおり、さらに10万人以上のアルバイトやパートタイマーが雇われている。これらの雇用者がすべて新しく民営化される会社に移されるが、問題はこのような労働力を新しいインセンティブ・システムにしたがってどう合理化し再配置するか、また高い勤労意欲と良い労使関係を維持するかである。特に民営化後の数年が勝負となるであろう。
最後に、上記の2点に関連して最も重要な問題は、新しい企業に相応しい経営者を選ぶことができるかどうかということである。民営化した企業を経営するために、2007年の民営化スタートに向けて人材を育成し、経営戦略を立て、時間スケジュールを明確化できる経営者を民間から選ぶ以外にない。もし新郵政会社が有能な経営者を見つけることができれば、郵政民営化の成功はほぼ確実になるであろう。今後の作業では、特に民間ビジネスの活性化、雇用への配慮、資源活用などの原則も充分考慮しなければならない。
英語の原文: "Postal Privatization to Energize the Japanese Economy"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20041129_ushio_postal/