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注目記事 (2005/1/31)

Opinions:
 
「東アジアの経済統合と日本の役割」
 木下俊彦 (早稲田大学教授)
  
   このところ東アジアで、自由貿易協定(FTA)や経済協力協定(EPA)が盛んになっている。さらには東アジア共同体の構想も長期的な目標として望まれるようになってきた。このような動きは、東アジアの地域主義の台頭に関連して起ってきたといえる。これまで、GATTやWTOで満足してきた東アジアで、比較的強い地域主義が芽生えてきた理由としては以下の4つが考えられる。
   第一の理由は、世界が地域主義に向かう一般的な傾向がみられることである。第二は、WTOの働きが弱いことである。第三は、東アジアの通貨・金融危機などで、APECが事実上崩壊したと感じられていることである。そして第四は、東アジアにおける貿易、資本および人的な交流を通じて実質的な経済統合の程度が深まったからである。
   それに対して拡散的な力も働いている。FTAは経済発展を促進するが、所得分配などの格差の問題を解決しない。そのためにはさらなる経済統合が必要であり、経済協力による地域の公共財への貢献が重要となる。そのために日本政府は、単にFTAだけでなくEPAを提案しているのである。また日本は、東アジア地域に対する金融面の支援、知的貢献、ルール作り、また社会資本作りにおいてイニシアティブを発揮することができるし、またそうすべきである。
   日本は中国ともASEAN諸国とも米国市場向けに激しい競争を行なっているわけではなく、むしろ中国経済やASEAN経済と補完的な貿易構造や産業構造をもっている。それに対して、中国は貿易面でASEANと激しく競争しており、ASEAN諸国はこの現象を不可避として、中国を地域のパートナーとするよう貿易や観光などで新しい機会を見つけようとしている。
   アジア経済共同体への動きについては、それはEUのような共同体ではなく、地域内にFTAやEPAのようなサブグループをつぎつぎと形成するといった現実的な動きになるであろう。地域の公共財としては、金融危機再来の回避、アジア債券市場の育成、地域通貨の安定化、地域共通の社会的インフラ整備、メンバー国間の所得格差是正、地域の環境保全、テロや海賊との戦い、エネルギー節約などがある。問題は誰がこれらのコストを負担するかであるが、日本を始め、中国、韓国といった主要なメンバー国が負担すべきであることはいうまでもない。
   結論として、日本はまず高い質のFTAを実現させ、ビジネスを歓迎する環境作りを、目立たずにしかも有効にリーダーシップをとって進めるべきである。そして地域の公共財のためのコストの大きな部分を負担し、中国や他の東アジア諸国と経済統合を進め、アジア経済共同体の実現に協力することができる。しかしその一方で、日本は世界の経済大国であることを忘れずに、例えばWTOの新ラウンドの再生やテロとのグローバルな戦いに貢献すべきである。
   これに対して米国は、東アジア諸国が地域のFTAや経済共同体の実現に対して熱心であることに理解を示すべきであろう。10年以上も前にマレーシアのマハティール元首相がEAECを提唱したときとは事態は劇的に変化している。米国は東アジアの夢を破るべきではなく、米国の真の同盟国である日本は、そのような東アジアの動きが決して米国に害を与えるものでないことを米国に対して保証する責任があるといえる。そのような日本の役割は中国によって代わられることはなく、日本はアジアで意思決定の透明性と地域経済の開放性を実現するよう努力して米国の信頼を保つように、独自の方法で賢いリーダーシップを発揮していくことが可能なのである。

英語の原文: "Economic Integration in East Asia and Japan's Role: Abridged Version"
http://www.glocom.org/opinions/essays/
20050131_kinoshita_economic/
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