先の小泉首相によるインド訪問は、日本とインドが相補関係にあることを改めて認識させ、今後の関係緊密化に向けて大きな一歩となった。
日本のインドの二国間関係は長い間良好であったが、特に20世紀後半以降、日本が経済の高度成長を追及する過程では、必ずしも緊密とは言い難かった。1991年のインドの経済改革以降、10年を経て、日本からのODAは対中国を上回るまでになったにも関わらず、日本企業による対印直接投資は20億ドル未満と、極めて少額に留まっている。その間、中国が経済的に台頭する一方、日本は少子高齢化社会に直面することになった。そしてインドはIT産業の世界的中枢の位置を占めるに至った。ここに、今改めて日印関係緊密化の可能性が展望できる。
日本は少子高齢化により、広義の介護サービスに対するニーズが強まる一方、産業の生産性も高めなくてはならない。フィリピンの看護士受け入れが捗々しい進捗を見せない中、インドは、介護という特定の分野に限らない良質の労働力を供給することが出来るだけでなく、日本の企業の提携先としてもインド企業は十分な実力を有して居り、産業のパートナーとしても機能し得る。
幾つかの障害も指摘されている。まずインドへの進出企業においての日本企業による現地への委譲が進まないことがある。既に多くが進出した米欧企業の現地法人の状況をみることにより、現地への信頼を増して行くことが必要であろう。次に、英語を操ることが出来る日本の技術者が少ないことがある。これについては、インドでの日本語教育が盛んになりつつあるという現象があり、それはそれで好ましいことではあるが、事実上の世界標準となってしまった英語はやはり必要であると再認識する必要がある。そして、今後も若い優秀な技術者が必要であるという現実がある。日本も豊かな生活を維持するためにはこの競争から免れることは出来ず、国民の老後の生活を保障した上で、海外からも優秀な人材を登用して行く必要がある。
最も重要なのは、日本は自らの豊かさを他と分かち合う時が来たと認識することである。長い間、日本のODAは商売上の思惑で実施されてきたが、今漸く、世界の富の格差は援助によってでは無く、雇用を創出することによって解決して行くべきであることが認識されるようになってきた。
インドは長い時間をかけて、漸く自らの得意分野としてIT産業を見出した。これからは如何にその立場を維持して行くかである。日本はまずインドとITビジネス分野での連携を進めることを志向すべきであり、それがやがてより広い範囲での補完関係へ発展することにより、両国は相互の繁栄と競争力を維持するためのパートナーとして機能することができよう。
英語の原文: "Japan and India Need Each Other"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20050516_dcosta_japan/