米国経済は表面的には適度に成長していてインフレも悪化していないようにみえるが、底流にあるマイナスの要因も徐々に影響力を増してきている。ガソリン価格と金利の上昇に対して、米国内では立場によって楽観論と悲観論が交錯しているが、いずれにしても双子の赤字に対して何かをすべきというコンセンサスが出てきていることは確かである。貿易赤字については、米国の消費を削減するか、貿易相手国の消費を増加させるか、あるいは米ドルを切り下げるかの方法しかないが、どれも世界経済への影響が大きいので、時間をかけてそれらをすべて徐々に実施する以外にない。
為替レートについては、米国は中国に対して人民元の切り上げを要求しているが、繊維に関する制裁も加わり、事態は政治問題化している。いずれにしても中国政府は米国の要求に屈するつもりはなく、通貨制度を多少伸縮的にする程度で済まそうとするであろう。人民元の完全な切り上げは、輸出産業に打撃を与え、国有企業に影響し、政権そのものが危なくなるということを中国政府は恐れているようである。
中国政府は対外的なイメージについても心配すべきである。反日デモの扱いを誤り、海外から予想以上に厳しい批判が出たことに驚いているようで、その後デモを抑圧しているが、時すでに遅く、中国の民主主義がいかに未熟であるかを白日のもとにさらしたダメージは大きい。このように中国政府は、米国、日本、それに台湾に対する問題などを抱えて苦しんでいるが、それでも北京オリンピックや上海万博などを控えて、何とかこのような問題に対して適宜対処していくであろう。
日本は米中のはざまで舵取りが難しいが、中国が友好的でないことに鑑みれば、現在のような米国との関係を続けていかざるを得ない。ただし、日本政府は米国に対して、日本が米国経済にとってどれだけ重要な役割を果しているかをもっと主張すべきである。例えば、日本がドルを多額に保有していることの意味を強調すべきであり、また牛肉などの貿易問題でも日本の立場をもっと強く打ち出してよい。いずれにしても普段からこれらの問題に関する日本国内の多様な意見を米国や世界に発信して、より健全な対外関係を築くことが必要であろう。
その一方で、東アジア共同体といった考え方に米国が懸念を表明している点には配慮すべきである。米国を除外したアジア共同体構想は、中国覇権の色が強く、それを米国が心配している。実際に中国はこのところ自信過剰な感があり、日本に対しても日本経済がもっぱら中国に依存しているといった見方を政府筋でさえもしているようである。日本は中国に対して相互依存関係の重要性を説き、中国政府の誤解を正す必要があろう。それに加えて、日本は米国などと協力して、中国が民主国家になっていくことを促進するような環境を国際的につくる努力をするべきである。もし中国が日本と同じ価値や体制を共有するようになれば、中国の将来にも東アジア共同体についても懸念材料はなくなるからである。
英語の原文: "Japan's Stance Toward the U.S. and China"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20050523_gyohten_japan/