現在の日本を覆う閉塞感
最近の日本では閉塞感が蔓延し、誰もが内向きになり、グローバル化した外の世界を見ようとしないし、また見ることができないでいる。これが若者も中高年も含めて日本人の深刻な弱点になりつつある。そのような閉塞感が支配的になった一つの理由は、日本人が非常に古くて狭い人間関係に押しつぶされているからである。派閥や学閥のような伝統的な人間関係は、すでに確立した集団の既得権を守る上では有用であるが、より開かれた創造的な社会を発展させる上では障害になってしまった。その結果、例えば日本ではベンチャーに必要なエンジニア、法律家、会計士など様々な専門家とコンタクトして、ビジネスをゼロから立ち上げられる人は非常に少ない。その理由は、これまでの古い人間関係が同じ会社や同じ業界のサラリーマンといった同質的な仲間の間に限られていたからである。
もちろん若者たちは古風な人間関係を嫌ってそれを拒絶している。しかし、彼らはその代わりにオンラインのチャットやゲームの「おたく」といったバーチャルな関係に陥るか、あるいは現実から逃避して「引きこもり」になってしまう。これが「ニート」や「フリーター」の急増と無関係であるはずがない。中にはインターネットを使って様々なオンライン活動をやっている者もいるが、彼らの世界は現実には非常に狭く、ごく少数のコンピューターおたくの間で親しい関係を形成している場合が多い。
自己の価値と意見の重要性
閉じられた人間関係や失われた人間関係の悪循環を打ち破るために、いまこそ日本で新しい人脈と対話を確立する必要がある。まず、自分自身の価値と意見を持ち、また常識も兼ね備えなければならない。さらに日本では、他人と対話する新しい方法を開発する必要がある。他人の言うことのすべてに同意することが良い対話ではない。もちろん対話がないことはそれ以上に問題である。いずれにしても、自分の見方や意見をはっきり述べ、また他人の意見に耳を傾ける。そしてお互いから学ぶことで、知識が豊かになり、知恵となって、予想不可能な世界での生活にとって役立つものになるであろう。その意味で、同質的なメンバー内にいるよりも、シナジーを生み出すような様々に異なる人たちと接触するほうが有益であるといえる。
いったん他の分野の人とコミュニケーションをとれば、自分の見方が広がり、理解も深まり、もっと他の分野の人々とコンタクトしたいという希望もましていき、外国の人とも交わるようになっていく。それが新しい人脈と対話の好循環へと導いていくであろう。このようなオープンな人脈づくりや対話を始めるための障害は、各人の他人に対する態度だけであり、その他の障害は存在しない。もし今すぐに皆が他人に対して自己の意見を表明して対話を始めれば、社会の雰囲気は明日にでも変わるであろう。
英語の原文: "Japan Needs to Establish New Human Connections and Communications"
http://www.glocom.org/debates/20050530_kitaoka_japan/