東アジアでは国際貿易・投資の伸びが著しく、次第に自律的な経済圏としての性格を備えるようになってきた。域内では米ドルが依然として主要な国際価値基準だが、独立した通貨圏が東アジアでもできる経済的条件が整いつつある。日米欧の多国籍企業だけでなく、域内のアジア企業の直接投資拡大が各国経済を結びつけると共に、域内各国で生産工程単位での分業を進めた結果、域内貿易が急増している。こうしてマクロ経済相互依存が進展したため、為替レートの域内安定が望ましくなってきた。
為替レートの域内相互安定を達成する方法としては、各国が特定の通貨に一方的にペッグするか、EU諸国のように一定のルールの下で協調的に為替安定を図るか、の二つが考えられる。現時点では、EU型の緊密な金融政策協調による為替安定化を行うほどには、東アジア諸国間の政治的関係は成熟しておらず、当局者の考え方も収れんしていない。そのため、各国が共通の国際通貨(ないしバスケット)に対してレートを安定化させることによって、域内通貨の相互安定を図ることがより現実的だ。そして貿易・投資・金融の制度・実態を踏まえれば、各国は、円・ドル・ユーロからなるG3通貨バスケットに対して自国通貨を安定させる政策をとることが望ましい。
域内の経済的相互依存関係が今後も高まることを考えれば、東アジアの通貨統合さえ二十〜三十年の視野でみれば決して夢物語ではない。各国間の経済的・制度的収れんが進み、政治的決断ができるようになれば、EU型の通貨安定のための金融政策協調に移ることができよう。その場合、日本の選択肢は、米国との関係を重視してきた英国をめざすか、フランスをはじめ大陸欧州との関係を深めてきたドイツをめざすか、の二つだろう。日本が英国の道を選択すれば、東アジアで経済・通貨統合を担う主体は中国になろう。日本が東アジアの統合に積極的にかかわろうとするならば、ドイツの道を選択するしかない。
英語の原文: "Economic Integration of East Asia and the Exchange Rate Arrangement - A Currency Basket System Most Effective"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20050801_kawai_economic/