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注目記事 (2005/8/1)

Opinions:
 
「東アジア経済統合と通貨体制 - 通貨バスケット制が有効」
 河合正弘 (東京大学教授)
  
   東アジアでは国際貿易・投資の伸びが著しく、次第に自律的な経済圏としての性格を備えるようになってきた。域内では米ドルが依然として主要な国際価値基準だが、独立した通貨圏が東アジアでもできる経済的条件が整いつつある。日米欧の多国籍企業だけでなく、域内のアジア企業の直接投資拡大が各国経済を結びつけると共に、域内各国で生産工程単位での分業を進めた結果、域内貿易が急増している。こうしてマクロ経済相互依存が進展したため、為替レートの域内安定が望ましくなってきた。
   為替レートの域内相互安定を達成する方法としては、各国が特定の通貨に一方的にペッグするか、EU諸国のように一定のルールの下で協調的に為替安定を図るか、の二つが考えられる。現時点では、EU型の緊密な金融政策協調による為替安定化を行うほどには、東アジア諸国間の政治的関係は成熟しておらず、当局者の考え方も収れんしていない。そのため、各国が共通の国際通貨(ないしバスケット)に対してレートを安定化させることによって、域内通貨の相互安定を図ることがより現実的だ。そして貿易・投資・金融の制度・実態を踏まえれば、各国は、円・ドル・ユーロからなるG3通貨バスケットに対して自国通貨を安定させる政策をとることが望ましい。
   域内の経済的相互依存関係が今後も高まることを考えれば、東アジアの通貨統合さえ二十〜三十年の視野でみれば決して夢物語ではない。各国間の経済的・制度的収れんが進み、政治的決断ができるようになれば、EU型の通貨安定のための金融政策協調に移ることができよう。その場合、日本の選択肢は、米国との関係を重視してきた英国をめざすか、フランスをはじめ大陸欧州との関係を深めてきたドイツをめざすか、の二つだろう。日本が英国の道を選択すれば、東アジアで経済・通貨統合を担う主体は中国になろう。日本が東アジアの統合に積極的にかかわろうとするならば、ドイツの道を選択するしかない。

英語の原文: "Economic Integration of East Asia and the Exchange Rate Arrangement - A Currency Basket System Most Effective"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20050801_kawai_economic/
Opinions:
 
「経済白書 − バターを切るに鋸を用う?」
 佐和隆光 (京都大学教授)
  
   経済白書の2005年度版に、「官から民へ−政府部門の再構築とその課題」という章が設けられた。ここでは、1)大きな政府は経済活動を阻害することがある、2)政府支出と国民負担率の関係の見直し、3)民営化のメリットの強調、4)地方への権限委譲、が指摘されている。
   第一点については、OECDでの討議結果として、政府支出の少ない国ほど、高い成長率が見られたと説明する。しかし、必ずしも日本で政府支出を減らせば成長率が高まるということでは無い。第二を論証するために、白書では非常に込み入ったアンケートを実施し、それに複雑な統計処理を行っている。しかしこのような手法は他では見たことがなく、過度に複雑な手法は、かえって本質を見難くするのではないか。「バターを切るに鋸を用う」のは避けるべきであろう。第三点では、対数目盛りを用いたグラフで、NTT、JR、JTの効率化の実績を説明している。しかし、これら企業の生産性向上は、国営の時代には許されなかった過剰人員の削減を行った結果であり、本来の経営合理化とは別の現象ではないのか。そして第四点については、地方政府がある程度の大きさになると費用が極小となるという統計を基に、現状では市町村合併を進めるべきとする。
   ケインズは、政府が為すべきことと為すべきでないこととの間に一線が引かれるべきであると指摘した。日本でも、まずは政府が行うべきことをどのように行うかを検討すべきである。
   全ての公共事業が悪い訳ではない。但し政府は慎重に優先度を吟味する必要がある。そして、社会補償支出は「セーフティー・ネット」ではなく「トランポリン」として用いられるべき、即ち、転職のリスクを負う者への補償に用いるべきである。

英語の原文: "Economic White Paper: Cutting Butter with a Saw?"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20050727_sawa_economic/
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