元英国首相のマーガレット・サッチャーは自らを「信念の政治家」と呼んだ。これは、原則を譲らず妥協を許さない、そして同様な意見を持つ者とは調整するより同調を求める、という自らの政治理念を踏まえての呼称であった。しかし日本の政治の世界では、このような手法は寧ろ厄介なものと見なされてきた。ただし小泉首相は例外のようである。自民党内からも時に「独裁者」と謗られながら、彼はこれまで権力を維持して来た。そして郵政民営化を巡って衆議院を解散した際には小泉首相の支持率は上昇した。
小泉氏が郵政改革を志向していることは以前から明らかであった。首相の座に就いてからは所謂小泉改革の中核として郵政民営化を据え、その実現に邁進してきた。未だ郵政民営化の意義を国民に充分説明していないという面はあるが、他の兆候や実績からして、小泉氏はおそらく史上初めて「小さな政府」を本当に信じている総理大臣と言えるのではないか。
日本は戦後、社会主義的福祉社会とも言える理念に基づき運営されて来た。小泉首相が就任の際に「自民党をぶっ壊す」と言ったとき、その意味するところは、自民党により構築されて来たこの日本の社会構造を破壊することであった。そして丁度その頃人々がグローバル化に徐々に目覚め、これまでのシステムでは上手く行かないということに気付き始めた。これが小泉改革に人々が期待を寄せる基盤となった。
確かに、郵政改革は、日本の財政や政府全体の制度改革に繋がっている。そうであればこそ、小泉首相は9月11日の総選挙に向けて詳細な分かり易い説明を人々に対し行う義務がある。その説明が行われないまま漠然とした小泉首相の人気が続くようであれば、これは却って危険な兆候と言える。小泉氏がサッチャーに倣って「信念の政治家」たらんとするならば、サッチャーと同様に、自らの政策を推進する基礎を為す知的・思想的な土台を明らかにして行く必要がある。
英語の原文: "Is Koizumi a 'Conviction Politician'?"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20050829_ishizuka_is/