WTOドーハラウンドの交渉が行き詰まり、崩壊の危機に直面している。
2001年のドーハ閣僚会議で策定された「ドーハ・ラウンド」は、2003年カンクンでの閣僚会議が破綻した後、昨年七月に漸く新たな大枠合意に達した。しかし、当時から「問題は合意の細部に潜んでいる」と指摘された通り、その後の交渉は、合意の細部を巡る各国間の確執のために殆ど進展していない。今のところは、多くの対立点について、何れも妥協点を見出すことは可能、との前向きな見方も根強い。しかし、問題の取扱いを誤れば、取り返しのつかない事態に陥る危険性も高い。以下の諸点を考慮すべきである。
第一に、中国という新参者を世界貿易の包括的な枠組みの中に取り込んで行く必要があり、そのためには、貿易を管理する強靭な制度を構築することが必要であること。第二に、「北」では減少しつつある人口が「南」では急増が続いており、世界規模での成長と雇用創出が喫緊の課題となっていること。第三に、グローバルな抱合と統合が必要であることを再認識すべきこと、即ちいつの間にか我々が陥ってしまった「北対南」や「先進国対途上国」という思考パターンからの脱却が必要であること。第四に、法規範の充実の重要性、即ち先進国は得てして途上国内、例えば中国では法に拠る秩序が維持されていないと非難するが、国際社会においても、法治は重要であり、法体系を強化しメンバーが規範に則って活動できる環境を整えるべきであること。第五に、欧・米・日という主要三極は、相互主義の壁、即ち相手が譲歩したらその分だけ自分も緩和するという手法を乗り越え、国際的な指導力を発揮すべき時が来たことを自覚すべきであること。
そして、もしドーハ・ラウンドが失敗したらどのような悲惨な事態に陥るかを考えてみるべきであろう。12月に香港で開催されるWTO会合が破綻した場合、昔の無秩序状態に戻るか、或いは複雑に張り巡らされた二国間や地域間特恵貿易協定の混沌に落ち込むか、それともこの二つが更に絡まりあう混乱の世界になってしまうであろう。
人々は自国政府の交渉担当者に対し、些細な問題から脱して大きな枠組みを創り上げて行くと言う挑戦を行うための励ましを与えなければならない時期に至っている。
英語の原文: "Doha Development Round - Failure is Not an Option"
http://www.glocom.org/debates/20051014_lehmann_doha/