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注目記事 (2005/12/19)

Opinions:
 
「日本における新学会の発足:国際P2M学会」
 木下 俊彦 (早稲田大学教授)
  
  プロジェクト・プログラム・マネージメント(P2M)は、これまで日本発の資格制度として知られてきた。それは当初、苦境にあえぐプラント・エンジニアリング業界のプロジェクト・マネージメント(PM)をどうするかという問題意識から出発したもので、個別のプロジェクトの経営や技術・技能に問題があるのではなく、それぞれの企業内で進めていく各種プロジェクト全体(これをプログラムと呼ぶ)の最適化が果たせなくなったところが問題との認識に立っている。言い換えれば、戦後から80年代末までの右肩上がりの時代には、企業内の事業部を競わせていればうまくいっていた部分最適型から、国内の売り上げが伸び悩み、メガ競争が激化する時代になったために、企業全体の経営を統合して、全体最適を実現していかなければならない時代に移行したのである。この現象は、プラント・エンジニアリング業界だけでなく、日本のほとんどの分野で見られるようになった。それでは、成熟化し「失われた10年」を経験した日本で新しいモデルを実現していくためにはどうすればよいのだろうか。
  米国では、ビジネススクールやロースクールなどを卒業した企業経営者が、アングロサクソン型のOne-Rule-Fits-All方式の経営を実施し、個別のプロジェクトは拡張性のないPMで対応してきた。日本企業でそうした米国型の方式を実施しても、問題が円満に解決するわけではない。とりわけ日本企業は、現在国内外の複雑な諸問題に直面しており、例えば企業の社会的責任や環境問題など複雑系経済社会に対応しなければならないからである。したがって、今こそこの分野における我々の経験と研究の成果に基づいて構築してきたプロジェクト・プログラム・マネージメント(P2M)の新しいビジョンと成功モデルを発展させていく必要がある。
  実際に、非アングロサクソン社会、特にアジア諸国で同様の問題が発生している。それゆえ伝統的なアジア型のマネージメントは急速にグローバル化する経済においては通用しなくなってきている一方で、アングロサクソン型の経営もアジアの経営環境に必ずしもうまく適合しない。したがって、現在多くの経済が共通に抱えている問題に対する適切な解決策をもたらすような新しいP2Mの学問分野を開発し、国際P2M学会を通じて知識の蓄積と発信を行なうためのインフラを作らなければならない。
  ここでプロジェクトマネージメント(PM)の発祥の地である米国で何か起っているかを見ることは興味深い。米国経済は世界一の地位を謳歌し、一見するとうまくいっているように見えるが、実際には特に個別のプラントレベルでは多くの深刻な問題に直面している。例えば、最近のRANDの調査によれば、3M、デュポン、テキサコなどが保有する44の化学プラントについて、大半の建設は予定より遅れ、予算も超過し、操業後も半分以上は十分な稼働率に達せず、利益も出せずいる。また北米で新設された工場の7割以上は運転開始後10年以内に閉鎖されるという事態が生じている。さらに、全米のM&Aの4分の3は最終的に利益を上げていないとの報告もなされている。いずれにしても、PMの現状については、本番米国でも懸念が表明されている状況である。
  もちろん日本や欧州でも、多くのプロジェクトやプログラムマネージメントの失敗例が報告されていることは言うまでもない。技術一般やPM技法は年々進歩しているが、それをうまく消化して収益に結び付けられない企業は後を絶たない。例えば日本では、三洋電機のようなIT企業は新しい技術を競争的なマーケットで生かすマネージメントができなかったといえる。ただし、多くの日本企業は製造業でも非製造業でも、非常に高い技術レベルを持ち、マネージメントでもJIT、改善、品質管理、顧客第一主義など優れた管理システムを持っている。しかし、それらの優れたシステムを概念形式化していないために、異なる価値観や職業倫理を持つ国での国際化で苦戦を強いられているようにみえる。
  したがって、製造業に加えてサービスや地域開発などの非製造業にも普遍的に通用するような新しいP2Mのアプローチを開発することが必要で、日本発の優れたマネージメントシステムを概念形式化して世界中のグローバルビジネスにとってもデファクト・スタンダードにするよう努力すべきである。さらに新しく創設された国際P2M学会を通じて、P2Mに関する広範な研究活動を促進し、教育・発信にも力を入れることが我々の役割である。
  (以上は、2005年10月30日に霞ヶ関ビルの東海大学校友会館で行なわれた国際P2M学会の設立総会における木下教授の講演要旨)

英語の原文: "Toward a New Academic Discipline in Japan: International P2M Association"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20051219_kinoshita_toward/
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