北朝鮮による日本人拉致被害者の夫が韓国人拉致被害者であったという日本政府の発表は、この問題に対し夫々異なる姿勢で対応してきた日韓両国を心情的に近づけるかも知れない。しかし米国がこの問題に関わることは、第二次対戦中に日本が犯した韓国人に対する強制労働や連行という問題から発する日韓外交関係の地雷原に足を踏み入れることになる。
90年代後半に至り、拉致被害者家族はまとまって政府に対し拉致問題に関する行動を要求したが、当時の日本政府は証拠不足と他に優先事項あったことからこれを採り上げることはせず、一部の右派勢力が宣伝に利用したのみであった。2002年に金正日が拉致を認めてからは日本中が家族の支持に回ったが、家族は引続き一部右派政治家との結託を続けた。家族が出席する集会等で行動を共にするのは、1930〜40年代の日本による大陸侵略の歴史について、教科書を改変させようと画策している勢力である。
このような状況の中で、米国が拉致被害者の味方をすることは、中韓の不快感を呼び起こす。家族の味方をすることは、日本の国粋主義者を支援することになるからである。米国政府は、今回の経緯を、地域に対する影響力保全手段としての人権問題の材料として利用しようとしている節があるが、これは危険である。米国は、拉致問題に至るまでの日本と朝鮮半島との長い捩れた関係に首を突っ込むことなく、当面の最重要課題である北朝鮮の核問題、延いては六カ国協議に外交努力を傾注すべきである。
英語の原文: "Abduction Diplomacy and the Six-Party Talks"
http://www.glocom.org/debates/20060426_schoff_abduction/