オイルショック後、日本は中東に巨額の原油代金を支払うことになったが、これは欧米に対する貿易黒字でほぼ相殺されていた。その間、欧米の対日貿易赤字は、中東に対する武器輸出や中東からの証券投資受け入れで賄われていた。70年代以降はこの「原油の三角還流」が世界経済の根本構造となったが、これはまた、欧米が武器と金融を支配し、東アジアが民生品の製造に特化するという世界分業体制を強化することとなった。
80年代半ばには、代替エネルギーの開発や省エネ技術の進化により、日本の原油輸入の増勢は収まったが、今度は香港・韓国・台湾・シンガポール、という所謂NIEs、そして今世紀に入り更に中国が対欧米貿易黒字を増加させる一方で原油輸入を増大させた。つまり日本を含めた東アジア全体としては、原油の三角還流構造はむしろ拡大した。またそれと並行して、東アジア諸国のエネルギー効率性は大きく進歩した。
この還流構造は、中南米やアフリカに多い発展途上国には殆ど恩恵を齎さなかった。それどころか、多くの産油国でも、健全な産業経済構造を構築することが出来ていない。皮肉なことに、原油価格の上昇によって最も利益を得たのは東アジアの非資源国である日本でありNIEsであった。
市場経済の下では、原油価格の上昇は代替エネルギーや省エネ技術の開発を促進する。産油国の多く、そして米国でも、この当然の原理を無視するかの如く、国内の石油・ガソリン価格を人為的に抑えてきた。原油価格上昇の歴史と各国の現状をみると、効率的なエネルギー利用に基づく経済運営という政策を実施し得たか否かが大きく明暗を分けたことがわかる。今後は、東アジアが開発した効率的な経済運営を世界規模に遍く均霑せしめることである。
英語の原文: "Higher Oil Prices Can Benefit E. Asia"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20060529_sugihara_higher/