各国間の自由貿易協定(FTA)の締結が相次ぐ一方、ヤマ場を迎えている世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド交渉は難航している。その中で近年日本は東アジア諸国を中心としてFTA交渉を積極的に進めてきた。
一般に国内で非効率に生産されるより外国から輸入される方が一国全体では利益となることは容易に説明できる。貿易の自由化は確かに過渡期において不利益を蒙る人が発生するが、このような人たちへは適切な所得再分配政策で、全体としての便益を引き上げることができる。また一時的に生じる失業問題は、比較優位産業への労働力移転を支援する政策により解決すべき問題であろう。
関税が撤廃されて域内での貿易取引が活発化し経済効率が上がるという「貿易創造効果」は基本的にはWTOでもFTAでも生じる。FTAであれば、当事国に特有な問題の解決や迅速な協議の進捗が期待でき、利益を早期に享受できるというメリットがある。しかしFTAには「貿易転換効果」と呼ばれるデメリットがある。FTAは域内と域外の外国の生産者を差別的に取り扱うため、従来の第三国からの輸入が締結国の非効率な生産者からの供給によって代替され、これが域内の経済厚生を引き下げてしまうという可能性である。
WTOの交渉は困難な面が多々あるが、それによって実現される資源配分がFTAよりは効率的になるならば、両者がすみ分けを行い、より効率的な経済システムを構築できるはずである。ヤマ場を迎えているドーハ・ラウンドにおいては、なるべく財の貿易の自由化に焦点を絞り、早期合意を目指すべきである。
英語の原文: "WTO and FTA: Seek the Best of Both Worlds"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20060626_abe_wto/