北朝鮮が10月9日に行なったのは実際に核実験であったことが、米国の放射性物資の検出によってほぼ確認されたが、このことは「六か国協議」とその前身である「枠組み合意」が成果を上げられず、北朝鮮が核保有国になることを防げなかったことを意味している。これはアジア太平洋地域の安全保障にとって重大な影響を及ぼしかねない。したがって、この地域の各国が協調して一致した行動をとり、事態の悪化を防ぐことが決定的に重要である。はたしてこの度、国連常任理事会において制裁決議が全会一致で可決されたことは、この地域の国々が協力していく姿勢をついに示したといえるのであろうか。
多くの専門家が言ってきたように、孤立化と制裁の政策は、北朝鮮がもっとも望んでいる「体制維持」という目的に反するので、北朝鮮の観点からすれば自分の存在を守るために核武装するというのはある意味で論理的な帰結といえる。したがって、7月4日のミサイル実験があまり注目を集めず、依然として世界の焦点が中東地域に当たっていたために、北朝鮮としては核実験をやっても何も失うものはないと感じたのであろう。
今となっては、外交交渉による問題解決は非常に難しくなってしまった。経済協力や首脳会談のような国家間の関係を改善する方策を拒否するという方針は、北朝鮮の頑固さをより助長するだけで、軍縮の際に自分に有利になり多国に不利になるような軍拡を許してしまったといえるであろう。これ以上対決姿勢を強めることは、北朝鮮をさらに孤立させてその政治体制の変化を阻害することになってしまうかもしれない。
安倍政権は保守的なスタンスを強調しており、また日本で反北朝鮮感情が高まっている折から、かなり厳しい措置をとっていく可能性が高い。実際に、9月には北朝鮮関連の組織に対して制裁を課し、また核実験後には北朝鮮を経済的に孤立されるような輸入禁止などの追加的措置をとった。また日本は攻撃的な兵器をもち、核武装を考えるべきという意見も聞かれるようになり、今後軍拡が助長され、憲法9条が改定される可能性もでてきた。ただし、そのような日本のスタンスについては、米国は支持するかもしれないが、中国や韓国は日本の軍国主義的な過去を指摘して賛成しないであろう。
北朝鮮は、中国、韓国およびロシアが最初は核実験を批判し、制裁に賛成する姿勢すらみせるかもしれないが、彼らの警告は言葉だけで真に戒めようとはしていないと思い込んでいる。実際に彼らは北朝鮮に皆で本当のプレッシャーをかけると体制が崩壊して、その深刻な経済的な影響を彼ら自身が受けることを憂慮している。他方、米国と日本は、今となってはいかなる妥協も拒否する以外に選択の余地はほとんどないと感じている。もし妥協的な態度をとれば、ならず者国家やテロリスト集団に対して核兵器が交渉の役に立ち、相手にされるための近道であるというメッセージを送ってしまうと憂慮している。逆に軍事的な攻撃は東アジアにとっては耐え難いので、この事態を解決する選択肢は非常に限られているといえる。
ここで疑問は、北朝鮮の体制の認知という要求をどうしたら満たすのかということである。その答えは、北朝鮮が交渉を拒否するとともに核兵器を開発するという戦略によってますます難しくなっている。各国が一致協力しないかぎり、北朝鮮は平和を追求し敵対をやめると主張する一方で、核を搭載したミサイルを打ち上げる能力をもつことで自国を防衛せざるをえないという態度を示し続けるであろう。
このような事態を予想して予防することができなかったために、アジア地域は不安定化している。それはまた他の国が核武装する危機に対処するための外交的な試みを無力にする危険性をはらんでいる。残念ながら北朝鮮のもつ核の野望を外交手段によって封じ込めることができなかったことは、協力して軍縮に向かう選択を非常に狭める結果となった。しかしまだ誰もが一致して感じているのは、今回の核実験を契機に何かがなされて、それがこれからの核兵器の開発と拡散を防ぐための真に統一された共同歩調をとる強い動機になるということであろう。この意味で、国連安保理で中国も支持して全会一致で採用された制裁決議は、もしそれが外交努力を再生させ、軍事行動を避けることができれば一歩前進といえる。しかしながら、真のテストはすべての国がこの決議を協力して実施し、究極的に対話を生み出すことができるかどうかにかかっているのである。
英語の原文: "The Reaction to Pyongyang's Nuclear Test: A New Step Forward?"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20061016_smith_the/