憲法の公布とほぼ同時に施行された今の教育基本法は、平和・正義・人権の尊重など憲法が掲げる理想を実現するための究極的手段が教育であることを謳っており、謂わば憲法と一体を成すものと捉えられてきた。しかし安倍首相は、この教育基本法の改正を政策の筆頭に掲げており、各方面からの強い反対を抑え国会で審議中である。法改正の提案は、丁度教育が混乱し、いじめ・自殺・校内暴力といった問題が発生している中で行われたものであるが、改正案ではこれらの問題は解決しない。何故かと言えば、安倍首相の真の目的は憲法改正にあるからである。教育基本法の改正は、憲法改正へ向けての序幕なのである。
基本法の改正案は、一見従来とあまり変わらないように見える。しかし専門家によれば、改正案は現行法が掲げる教育の理念を完全にひっくり返すものである。ある教育専門家は、例えば国民に、国家を尊敬することなど特定の思想を植えつけるという、隠された目的があると指摘する。これは現行法が掲げる憲法の理念の実現という目標に真っ向から反している。懸念されるのは、教育に於ける国家の統制が更に強まることである。
改正案のもう一つの特徴は、学生・生徒同士、更には学校間で競争を促すという方向性である。これは1980年代に英国サッチャー政権下で採られたものであるが、これを日本に導入することは、すでに広がりつつある社会的格差をますます広げることになりかねない。
英語の原文: "New Education Law Unlikely to Solve Immediate Problems"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20061127_ishizuka_new/