日本では政府関係の専門家以外にあまり関心が寄せられていないように見える問題を取り上げたい。それは中東での出来事が米国の北朝鮮政策に及ぼす影響についてである。
まず米国の威信がイラク戦争によって傷ついたことは確かであり、イラクと中東での失敗は米国のパワーを弱め、その主要な同盟国である日本にも悪影響を与えることは避けられない。またイラク戦争後、米国では政府も議会も国民も、海外の紛争にかかわることにより用心深くなる可能性が高い。イラクへの攻撃は、大量破壊兵器の脅威、人権の尊重、民主主義の創造といった理由で正当化されたので、もし政府が同じ理由で北朝鮮を攻撃しようとしても誰もそれを信じようとはしないであろう。
さらに、イラク戦後は2008年に始まるかもしれないが、まだ確かでなく、米軍がさらに長期にイラクに駐留する可能性もある。そうである限り、米国はこの勝ち目のない戦争に主要な精力を割くことになり、その結果、北東アジアでは北朝鮮問題であろうと台湾問題であろうと単に危機を回避することが政策目標になるであろう。たとえそれが、米国に敵対的な国に譲歩することを意味するにしてもである。日本の政策当局者は、北朝鮮問題について米国が中国に「白紙委任状」を与えたのではないかと心配している。それは明らかに日本の国益に反するからである。
いずれにしても米国は、今後ともアジア南西部、つまりアフガニスタン、イラン、イスラエル・パレスチナ・レバノン、ソマリア、あるいはサウジアラビアなどにおける問題に関与し続ける可能性が高く、そのため北朝鮮など北東アジアの問題に注目する余裕はなくなるであろう。そこで北朝鮮問題については、米国や日本よりも中国と韓国がはるかに大きな影響力をもってくることは確かである。もちろん、それが米国と日本の政策的目標と一致する保証はない。
さらなる問題点は、イラク戦争の過程で明らかになってきたことであるが、国際問題に対する米国と日本の考え方に違いが生じていることである。北朝鮮問題については、米国は北朝鮮を事実上の「核保有国」と認めているのに対して、日本は少なくとも公式見解では北朝鮮の非核化を信じ続けている。米国は、北朝鮮の核が直接日本に対する脅威になっていることよりも、それがアルカイダなどのテロリストの手に渡ることのほうをより懸念しているのである。
以上により、日本政府はイラク戦争と戦後がもたらす東アジアにおける米国の威信低下の影響を考慮して、日本の外交・防衛の政策と戦略を練り直す必要がある。特に過去10〜15年間の日本の防衛政策について、防衛費がGDP比率で低い上にほとんど変化せず、しかも2006年には北朝鮮によるミサイルや核の実験があったにもかかわらず、防衛費がほとんど増加していないのは驚くべきことである。米国との同盟は日本にとってベストな政策であるにしても、日本は日米安保条約の空洞化傾向に対して保険をかけておくのも一案である。それは、防衛費の再検討、韓国との安全保障関係の強化、中国へのより有効な対応策などを含むであろう。
英語の原文: "Options for Japan and the U.S. Toward North Korea in a Post-Iraq World"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20070122_dujarric_options/