近年、わが国では雇用形態が多様化した。また、正社員の間でも職務の高度化・専門化により、個別雇用管理が進展した。一九九八年から昨年までの間に、非正規雇用者の全体に占める割合は二四%から三三%に上昇した。この背景としては、各産業内での非正規雇用増加の影響が大きい。これに伴い若年層を中心に所得格差の拡大が見られ、階層の固定化が進展、晩婚化や少子化にも少なからず影響している。また、正社員も職務の高度化・専門化が起こり、もはや集団的雇用管理による画一的な働き方を想定した労働法では対応しきれない。
これまでの企業と正社員の間には、謂わば「保障と拘束」の関係があった。企業は正社員に家族手当などを支払い、生活を保障する代わり、その代償として長時間残業や頻繁な転勤といった拘束をかけてきた。しかし、こうした拘束に代わり、今後はワーク・ライフ・パランス(WLB)の促進が重要である。
WLBとは、働き方を見直し、個人が私的生活を充実させ、同時に企業も仕事の進め方や中身を再検討し、時間当たり付加価値生産性を高め、業績を向上させることを意味する。わが国でも最近WLBの実現に取り組む企業が増えてきた。そして、WLBは「暮らし」の問題だけに、その具体化には地域に密着した取り組みが有効である。欧米の先行事例を見ても、地域特徴を生かし実情に即した地域提案型の雇用創出策が実績を上げており、これを国が資金や情報、人材面でサポートしていく地域雇用戦略が有効である。
こうした地域の動きを日本全体の大きな流れにするには、国レベルでの関与が必要になる。そのためには、今後の日本を見通したグランドデザインを描き、そのもとに政労使の果たすべき役割を明記した「ワーク・ライフ・バランス推進基本法」を制定すべきである。
英語の原文: "Seek Work-Life Balance by Enacting a Basic Law"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20070213_higuchi_seek/