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注目記事 (2007/2/19)

Opinions:
 
「インドのIT技術者と日本のニーズ」
 アンソニー・デコスタ (ワシントン大学教授)
  
  日本とインドとの関係は、アジア経済の拡大とグローバル化の流れの中で大きな転換期にさしかかっている。その背景にある重要な問題は、急成長するITなどのハイテク分野において十分に訓練を受けた技術者をどう見つけるかということである。日本は団塊世代が大量に退職を始める2007年問題を抱えて、高齢化する他の先進国と同じジレンマに直面しつつある。そこで、日本が高齢者をどのように支えていくかという問いは発せられるだけで、ほとんど意味のある答えが見いだされていない。明らかに、この問題については、日本とインドは通常の二国間の関係に加えて、インドは日本に対して十分訓練された技術者を提供することで高齢化に伴う人口問題を抱える日本を支援する一方、日本はインド経済に対してこれまで以上の長期的関係を築き、インドの発展に協力することが考えられる。
  日本の強みは、情報通信技術の分野にあり、通信、組み込みソフト、家電、自動車などの製造業では世界のリーダーである。しかし、他のアジア諸国が低賃金と技術習得によって追い上げてくるので、日本は常に技術革新を続けて、高付加価値の分野の市場を開拓していかなければならない。ここで、日本は技術的訓練やR&D投資を行うだけでは十分ではない。なぜなら、情報通信技術はますますグローバル・スタンダードに収束していく傾向があるが、日本はこれまで得意分野で自分のスタンダードを確立してきたので、グローバル・スタンダードに従ってこなかったからである。さらに製造コストは下落し続けているので、日本は、グローバルな革新と技術的スタンダードを追い求めるだけでなく、新たな技術的なフロンティアを広げていかなければならない。そのために、日本はかなりの数の有能な科学者や技術者を必要としている。しかし多くのデータが示しているように、日本では科学技術分野に興味を持つ若者が減っているので、この分野の人材の供給がボトルネックになりつつある。したがって日本は、今後インド、中国、フィリピンといった国々から技術者などを導入しなければならなくなるであろう。
  日本の問題は、そのような人材が日本に来ることを希望するとは限らないことである。IT産業の人材不足は世界的に広がっており、これまでにないほど人材獲得競争が激化している。OECD各国のニーズに対して、OECD以外の諸国がそのような人材の多くを送り出しているが、そのうちごくわずかな数しか十分な教育や訓練を受けておらず、インドとロシアがもっとも多くそのような有能な人材を輸出している。その一方で、米国が海外から学生や研究者をもっとも多く引き付けていることはいうまでもない。特に英語を話す学生などは米国の社会に容易に溶け込むことができる。それに対して、日本は経済の規模は大きいが、外国の学生にとってはあまり魅力的な国といえないことは明らかである。
  他方、インドも自分自身の問題を抱えている。第一に、米国の需要によって急成長を遂げたインドのIT産業では労働力が逼迫気味である。そのために転職率も賃金も非常に高くなっている。第ニに、そのことはインド自身が労働力不足に直面しつつあることを意味する。実際に、2010年までに、約50万人のIT技術者やスタッフが不足するという推計もなされている。第三に、インドの有能な人材は米国の多国籍企業のような欧米の企業によって持っていかれてしまうので、規模が小さいインドの企業やアジアの市場向きにはそれほど有能でない人材しか残らない。したがって、日本は外国のIT技術者に高い給料を支払うことはできるが、それだけでは有能な人材を引き付けるのに十分ではないであろう。
  日本は世界で2番目に大きなIT市場を持っているが、海外から人材を獲得できないので、困難な状況に陥りつつある。ハイテク分野における人材不足と競争激化というプレッシャーを受け続けて、何とかしなければならない。そこで北九州市や福岡市では、アジアと距離的に近いこともあり、中国人や他のアジア人を大学や研究所や企業に引き付けようと努力している。しかし日本全体として、この問題は非常に深刻で、先見性、創造力および政治的意思をもって社会全体として取り組むべきであり、これまでのやり方を続けることはできなくなっている。この情報社会では、日本は海外からの人材と国内の女性の能力をIT産業で活かすことによって少子高齢化問題に対処していくべきである。21世紀においてはグローバルな競争に勝つためには柔軟性と技術的能力が必要となっている。高齢化に苦しむ多くの国での人材不足が人材の世界的な流れと方向を決める要因になっているが、これまでのところ、インドは日本をそれほど魅力的と感じてはおらず、日本もこの必然の流れをまだ受け入れられないようである。しかしながら、この現状はぜひ打破しなければならない。日本にとっては、ハイテク経済を海外からの有能な人材の導入で再活性化するプラスが非常に大きく、またインドにとっては、日本の製造業のノウハウによって高度成長を維持してより多くの国民に成長の成果を浸透させることが非常に重要だからである。

英語の原文: "Can India Meet Japan's Technical Worker Needs? "
http://www.glocom.org/opinions/essays/20070219_dcosta_can/
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