いわゆる「失われた十年」を経て、日本の社会は様々な意味で大きな変貌を遂げた。中でも最も大きな変化を示したのは雇用慣行と労働環境であろう。以前、日本の会社、特に大企業は社会保障の事実上の提供者であった。従業員の解雇は稀であり、雇用の保障などという問題は存在しなかった。その代わり、従業員には限りなき忠誠を期待し、また従業員もよくそれに応えた。
社会学的に捉えれば、日本の会社社会制度は、それまで何世紀もの間続いた、村や町を単位とした、人々が互いに緊密に結びついた共同体の代わりを果たすものとなっていた。しかし村や町の共同体は経済成長と工業化を通じ、若年労働者が大規模で都会に移転することにより崩壊し、新たな会社共同体を生むこととなった。しかしバブル崩壊後の長い不況、そしてその間更に激しくなった海外との競争を生き抜く過程で、企業はそれまでの慣行を大きく変えざるを得なくなった。
その後、正社員は1998年以来12%減少しているのに対し、パートや臨時雇いは42%も増加し、いまや勤労者の32%は非正規従業員である。これに伴い、従来は企業に委ねられていた社会保障の諸施策を、政府が担う必要が出てきている。これは、国会に上程される労働関係法案の質量の増加からも見てとれる。
しかし真の問題は、従来日本社会の骨格を成していた結束の意識が急速に消滅しつつある中で、地域や会社といった拠り所を失った日本人が、これからどのような社会を築いて行くかである。一部左翼政治家は、この空白に乗じて右翼が国家の関与を高めて行き、それがナショナリズムの高揚に通じるのでないかと懸念している。
英語の原文: "'Company Community' Vanishing as Japan in Grip of Social Change"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20070305_ishizuka_company/