今日の日中関係は非常に良好である。実際に、今年は南京大虐殺から70年目であるにもかかわらずまったく問題になっておらず、これまで数年続いた日本の歴史認識に対する批判もあまり聞かれなくなっている。これも安倍首相が昨年9月に首相に就任して以来、日本の対中・対韓関係を改善することを最優先し、就任直後に北京とソウルを訪問し、温家宝首相もそれに応えて訪日したことが大きく影響している。実際に温首相の日本での言動そのものもさることながら、それらが中国で報道されて、一般の中国国民にも、自国のリーダーが日本との関係改善を望んでいることが理解されたことは特筆に値する。
それでもまだ日中間の溝は埋まっていない。中国の台頭は日本人を不安にさせており、また日本が国際政治や安全保障の面でより重要な役割を果たそうとすることは中国人の神経を逆なでしている。両国の関係は不安的で、領土問題を抱え、イランや北朝鮮問題に関する政策の違いもあり、さらにアジア地域のリーダーとしてライバル関係にあるといえる。
そこで日中間で必要な信頼関係を築くためにも、日米中三カ国の協力が重要になる。二国間の関係の積み重ねの上に、日中米は真の三カ国協力関係を築くとともに、中国の日米同盟に対する認識を劇的に変える稀な機会に遭遇しているといえる。そのために、これら三カ国はアジアおよび世界の戦略的な問題を議論する政府高官レベルの対話を始めるべきである。またそれに加えて、政策立案者たちが具体的な問題を論じることで協力と信頼関係を醸成すべきであろう。例えば、エネルギー問題、大量破壊兵器拡散の問題、災害救援、高齢化問題、海難防止などを手始めに、協力して結論を得ることが重要である。
ここで中核的な問題は、同盟国である日本と米国がどのように中国を巻き込むかということである。中国の日米同盟に対する疑念は根深く、日本の防衛力強化についての議論はすべて中国を標的にしているとみる傾向がある。そのために中国を巻き込んで、安全保障問題の複雑さを議論し、中国が問題となるかどうかは中国自身の行動次第であることを理解させることが重要である。また中国にとって、例えば北朝鮮問題などで日米と共同歩調を取ることは、アジアや世界に対して貢献しようとしている意思を表明することにもなる。さらに三カ国の協力体制を築くことは、日米が台湾の現状を一方的に変えようとしておらず、中台問題の平和的な解決を望んでいることを示して中国の懸念を晴らすことに役立つであろう。
他方、三カ国が協力しなければそのコストは非常に大きい。お互いの不信感が募れば、軍備拡張をもたらし、いつでも危機に発展する可能性がある。朝鮮半島の問題では、協力関係は六カ国協議を強化し、北東アジアの安全保障のための基礎を築くことに役立つであろうが、もし協力できなければ六カ国協議の有効性を損なう危険がある。アジア諸国はこの三カ国協力体制を歓迎し、特に東南アジア諸国は台湾海峡が安全になることを大きなプラスと評価するはずである。北朝鮮と韓国だけは日米中の協力体制に懸念を持つと思われるが、それも韓国が近隣諸国や同盟国と共同でアジアの諸問題解決のために努力する姿勢を見せることで解決していくであろう。
英語の原文: "And Now to Trilateralism"
http://www.glocom.org/debates/20070502_gloss_tri/