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注目記事(2007/6/25)

Opinions:
 
「日米間の経済連携協定を:再論」
 本田敬吉 (イー・エフ・アイ株式会社・会長)
  
  最近、「経済連携協定(EPA)」や「自由貿易協定(FTA)」がビジネス・キーワードとなっており、WTOにおける多角的な協定の締結が難しくなっている昨今、二国間協定が次善の策として注目されている。また日本にとっては、今春の米韓間の自由貿易協定の締結が刺激となって、日米間の協定の可能性と必要性が盛んに議論されるようになってきた。
  私自身は昨年9月に「日米間で包括的経済連携協定を」という論文を寄稿したが、そこで日米協定の必要性の理由を以下のように指摘した。(1)アジア太平洋地域の政治的な「安定」の基本的前提となり、地域内の個人、企業、都市、国家の間に持続可能で相互にプラスになる関係を構築するためのモデルを提供するため。(2)戦後の日米間通商・経済交渉によって拡大・進化した両国の相互依存関係を、当地域における世代交代や地政学的変化による「風化」から守るため。(3)日米に共通した政治・経済・社会の価値観からすれば、両国の関係は将来的には経済的相互補完・統合関係へと「進化」する可能性があり、その際にEU統合のキーワードである「最小限の調和」と「相違点の相互受容」が道標となる。
  このように日米間経済連携協定を推進すべきという声は以前から聞かれていたが、実際の動きは非常に鈍く、ほとんど進展がなかった。その理由は何といっても長年の農業問題にあるといえる。こうした観点から、安倍首相が農業の抜本改革を推進しようとしているのは評価できる。では日本の農業は日米EPAに向けて何を改革すべきなのだろうか。
  まず、小規模の農家が行なっている日本の農業に対して、米国の農業は桁違いの規模と市場組織をもっており、同じ次元で比較検討することはほとんど意味がない。生産性については米国と同じ種類・品質の穀物に関しては勝ち目はなく、むしろ日米両国の農業と農産品の「差別化」を考えたうえで生産性を論ずるのが正解である。オレンジやさくらんぼがその例であり、コメについても自由化した場合、主食用にまでなるか否かは消費者の嗜好と市場が判定することである。また農地制度改革により農家が手にするであろう資金でカリフォルニアの水田所有者になる道もある。
  「差別化」とか「特化」とかはグローバル化時代においてはほとんどあらゆる業界で起こっていることである。グローバル化といえども地域性と民族固有の嗜好には勝てないからだ。日本列島固有の恵まれた稀有の自然条件を存分に生かした高付加価値農業はあるはずである。現にわが国の農業と食品産業はハイテク化しているといってよい。全く同じ発想は水産業にも当てはまり、わが国の養殖漁業技術は世界最高水準にある。農水産業は有力な輸出産業に変貌できるはずで、ここでもイノベーションが決め手になる。
  いまひとつの大変重要な観点は「食糧自給」であるが、この問題はとりもなおさず国民生活の安全保障問題である。とすればそれはエネルギーや天災・人災リスクと並んで冷静・慎重に評価されねばならない。「リスク評価」には、発生確率、継続期間、被害度、その後遺症などいくつかの側面がある。いずれをとっても食糧だけが抜きん出てハイリスクだというわけではないし、決定的・致命的リスクとも言い切れず、他のリスクとも関連している面が多い。またエネルギーと並んで「備蓄」による対応可能なリスクでもある。
  このように「貿易」と「リスク」と「備蓄」を合わせ熟考していくと、結局は頼りがいのあるパートナーが必要だというひとつの結論に辿り着く。パートナーである以上はお互いの責務は「双務的」でなければならない。なればこそ日米EPAは「総合的」な視点から考えなければならない。しかし、総合的とはいえ盛り沢山にすればするほど、それは夢物語に傾き合意の道のりは遠のく。むしろ安定した経済パートナーであるためのギブ・アンド・テイクをきめ細かく組み合わせる努力のほうが近道である。実際、日米間の個別取り決めや合意は長年にわたり積み上がり事実上のEPA的環境を形成してきた。それらを総合的な互恵の観点から再吟味・評価し、さらに現時点で互いに求めるものを極力妥協して組み合わせていけば、総合的なEPAに辿り着く可能性が展望できる。「最小限の調和」と「相違点の相互受容」がその道標である。
英語の原文: "Toward an EPA for Japan and the US: Revisited"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20070625_honda_toward/
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