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注目記事(2007/8/2)

Opinions:
 
「安倍首相敗北が持つ意味」
 木下俊彦 (早稲田大学教授)
  
  安倍首相が率いる与党が今回の参院選で大敗したのはなぜか。その理由は、一国の首相としてのリーダーシップとコミットメントについて小泉元首相と安倍氏を比べてみれば明らかである。小泉氏が日本の公共部門と官僚制の改革に真剣に取り組んだことは誰も疑わなかったが(ここでは、彼の過度にナショナリスティックであったアジア外交については除くが)、安倍氏による最近の年金問題や政治と金の問題の扱い方についてはほとんど誰も支持しておらず、国民の大半が批判的である。いずれにしても安倍首相は危機管理能力がないことを露呈した形になり、一国の首相としての信頼を完全に失ってしまった。
  多くの評論家、特に海外の批評家は、ここしばらくの日本の政治や経済について非常に悲観的な意見を述べている。それは安倍首相の選挙での敗北が、まだよりふさわしいリーダーの出現につながっておらず、これから政治的な空白や混乱が2009年の衆議院総選挙まで続く可能性があるためといえる。またこのところ国際的に日本の立場が不利になる展開も目立っており、米上院での「慰安婦問題」について日本政府の公式の謝罪を求める決議案が可決されたことも安倍政権に打撃を与えていることは間違いない。
  しかし、政治的な不確実性がマイナスであることは確かだが、日本の将来についてあまり悲観的になる必要はないというのが私の意見である。まず第1に、安倍首相の敗北は、彼の憲法改正、集団的自衛権、道徳教育といった意見の分かれるような政策に対する右翼の保守的なアドバイザーの影響力を弱める可能性が高い。そのような問題はいかに重要とはいえ、国民の意見を左右に引き裂くのではなく、むしろコンセンサスや妥協を促進するように注意深く扱うべきであり、今回の選挙の結果そのような方向に進む可能性も出てきたと思われる。その代わり、政府は年金問題や健康保険問題のような経済的問題に焦点を当てることが期待される。
  第2に、安倍氏と小沢氏はいろいろな問題で意見が違うことは当然であるが、少なくとも日本が米国と緊密な関係を保つべきという点で一致していることは確かである。安倍氏はこれまで米国影響下の戦後体制からの脱却を強調して米国をいらつかせたこともあったが、彼自身は日本にとって米国との良好な関係が死活問題であることを十分理解していると思われる。また同様に、小沢氏も日本でもっとも親米的な政治家の一人であることが知られており、そのイメージをできるだけ維持しようとするはずである。もちろん政治的に親米的(というよりも親ブッシュ的)な安倍氏を批判する可能性はあるが、基本的には2人とも日米間の良好な関係を維持しながら必要に応じてアジアとの関係も改善していくことでは一致するであろう。
  第3に、日本の政治は不確実性が増し改革がストップする可能性もあるが、それでも日本経済はここしばらく着実に成長を続けるであろう。日本経済の回復は政府の刺激策によってではなく、民間企業の努力によって推進されているからである。したがって、経済政策が進まないとしても日本経済についてあまり悲観的になる必要はない。実際に一国の経済は、その政治の変化よりもむしろグローバルな経済の動向によって大きく左右されるようになっている。結論として、今回の選挙結果は当面マイナスの影響を持つとはいえ、日本の政治経済を支える基礎的な条件は堅固で健全であり、政治の分野での悲観論よりも、民間部門での楽観論が勝るといえるであろう。
英語の原文: "Implications of Prime Minister Abe's Election Defeat"
http://www.glocom.org/opinions/essays/
20070802_kinoshita_implication/
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