いまの世界は爆発にも似た大変化が起こっており、世界経済はフラット化し、マネー化が急速に進んでいる。われわれは過去の「成功体験」にしがみつき、これまでの豊かな生活を維持しようとしているが、現在の大変化に翻弄され、ついていけなくなっている。いまやこれらの変化の現実から逃避せずに、前向きに取り組み、グローバルな経済の中で自分たちの立場を回復させるために、自分たち自身も、自分たちの組織も、自分たちの国の姿勢も変える必要がある。そのためには、豊かな日本社会復活という明確な目的と健全な哲学に基づいた戦略を立てなければならない。
いまや経済の面で、日本は中国に追い抜かれつつあるといわれている。しかし、それは年間の生産や所得やそれらの成長率などには当てはまるかもしれないが、蓄積された資金、金融資産や国富などでは、米国を除けば、中国を始め世界のどの国よりも日本が先を行っていることは明らかである。もしそうであれば、日本が今後成長を続けるために、蓄積した資産を十分に活用する戦略を立てる必要があることは明らかであろう。実際に、蓄積した富を利用しない限り、人口減が始まっている日本がこれ以上成長することはできない。その結果、年金制度など日本のシステムが崩壊する危険が大きいといえよう。したがって、日本はその持てる強み、つまり蓄積した富をフルに活用する戦略以外の選択はありえないのである。
もちろん日本政府がこのところ「貯蓄から投資へ」を強調していることは確かであるが、それは単に掛け声に終わっており、有効な支援策を伴っているとはいいがたい。例えば証券優遇税制が採用されたが、あくまで一時的な時限措置で、いつ廃止されるか分からないといった状況である。さらなる問題は、日本では世界の金融市場で個人、組織、政府の資金を運用する際に必要なファイナンシャル・アドバイザーやポートフォリオ・マネージャーを組織的に育成する制度がないことである。したがって、これらの点で、日本は戦略を立てて多くの問題を解決する策を実施していかなければならない。
実は、日本が活用すべき資源は、金融資本ばかりではない。人的資本も再評価して、もっと十分に活用していく必要がある。その点で、「知的資本」(インテレクチュアル・キャピタル)という概念が重要で、これは長年培ってきたノウハウや知恵の結果であり、人的資本の価値を高める役割を果たす。それは、ブランドや知的財産権という形をとる場合も多い。例えば、日本発の高級ブランドをもっと開発すれば、今日のグローバル化した経済における日本のプレゼンスや影響力を高める上で極めて有効であろう。また日本国内でも、経済社会活動において一人二役、三役が可能な人材を育てれば、人的資本の価値が高まり、少子高齢化の問題も克服することができる。さらにこれは、金融資産を持たなくても、人的資本を活用することで、経済社会の格差を解消し、バランスを回復するためのカギを握るといえよう。
結論として、日本は金の面と人の面で蓄積した資源に注目し、経済においてそれらを十分に活用して、プラスの相互作用を生み出し、人間の活動全体の価値を高めるような戦略を採用する必要がある。そのためには、われわれはこれまでグループ志向で懸命に働くサラリーマンが支えてきた輸出型の製造業の「成功体験」を捨てて、自分たちが蓄積した金融資産や人的資産をうまく有効に活用できるように自己訓練しなければならない。そして政府はそのような個々人の努力を、豊かな日本社会復活という明確な目的と健全な哲学に基づいた恒久的な政策の採用によって支援していくことが望まれるのである。
英語の原文:
"Strategies for Revival of Japan as Affluent Society"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20070823_mihara_strategy/