経済の成長にもかかわらず、長年隠ぺいされ未解決だった社会的格差の問題が再び表面化して、政治家たちを慌てさせている。
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高度経済成長初期の1950年代において、「二重構造」は日本経済の中心的課題の一つであった。当時、中小企業の賃金は大企業の半分程度であったが、状況は経済成長とともに7割程度にまで改善された。しかし今日の統計を見ると、半世紀前に戻っているようで、経済社会的な格差の拡大は、現在の日本が抱える主要な政治課題となってきた。
二重構造は高い経済成長とその結果として財政的に潤った政府の再分配政策によって隠されてきただけであったので、それらの要因がなくなるにつれて、「格差問題」として再浮上してきた。その上、世界経済のグローバル化が進み、日本の弱い部門が前例のない冷酷な国際競争にさらされるようになったことも大きい。したがって問われるべきは、なぜ格差の源泉である二重構造が日本経済の黄金期にも完全に消滅しなかったのかということである。
これに関連して、最低賃金の引き上げが検討されている。日本の最低賃金は、国際的に見ても低く、社会保障の額以下で、経済的には働かないほうがよい状況である。現在最低賃金の引き上げが検討されているが、それに抵抗するのは厳しい状況下にある多くの中小企業で、賃金の上昇は雇用が控えられることで失業率を高める結果になることが恐れられている。中小企業の問題は、低い生産性と同時に大企業の下請けとしてコスト削減の圧力を受けていることがあり、経済のグローバル化の圧力も強く働いている。
今回の参院選での自民党の大敗は、改革によって犠牲になり見捨てられた地方の農業部門や公共投資などに頼るその他の弱い部門の人々の反乱にあるとされる。人口減少でさびれた地方は大変厳しい状況にある。このような地方は、かつては保守的な自民党の砦であり、いまだに議席を確保しているが、自民党が地方を守る立場からグローバル化の流れに乗る部門を支持する立場に変わったために、党を見捨て始めた。そのにもかかわらず、安倍首相は小泉前首相に倣って「成長のための改革」を掲げて選挙に敗れたために、党内の各層から批判を浴び、党内で利害対立による混乱を起こしている。その結果、さらなるグローバル化の進展と政府の財政状況の悪化などにより、自民党内で何も指針が固まらない状態である。
それに対して小沢民主党は今回の選挙で、地方と大都市の所得格差の拡大を是正するための農家への所得補償を政策に掲げ、選挙結果からすればこの戦略は功を奏したといえる。しかし有権者全体としては、これが現在日本の直面する根本的な問題を解決する正しい答えかどうか確信するに至っていない。多くの国民には、かつての自民党が行ってきた地方への補助金や公共投資というばら撒きとほとんど同じように見える。
二重構造が継続するなか、国内の利益かグローバル化の追求かのジレンマに対して真の解決策はまだ見つかっていない。いかにこの解決法を見出すかが政治的課題となるべきであり、それをめぐる論争が政界再編の前兆になる可能性があるといえる。
英語の原文:
"Today's Disparities Echo Yesterday's 'Dual Structure'"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20070903_ishizuka_today/