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注目記事(2007/9/10)

Debates:
 
「日本の大学の財政問題解決へのヒント」
 ダニエル・ドーラン (東北大学教授)
  
  日本の大学の危機について、少子高齢化により学生数が減少していることが問題といわれているが、それは大学が抱えている多くの問題の一つにしか過ぎない。危機の全体像を把握するためには、卒業生のネットワークや支援活動の弱さ、有効な教授方法や学習方法の開発力不足、非効率で融通の利かない監督官庁、財務運営の能力不足などの問題をすべて考慮しなければならない。
  そのうち特に財務経営の問題を取り上げ、米国の例を見ると、米私立大学には個人、法人、財団基金などによる寄付から成り立っている「大学基金」(endowment)があり、例えばハーバード大の基金の総額は、現在349億ドルに達している。2006年度だけで見ると、ハーバード大学は約6億ドルの寄付を集めたが、スタンフォード大学への寄付はそれを上回り9億ドルを超える額となった。これに対して、日本では例えば慶応大学への寄付は年間1億ドルにも達せず、2005年度で6750万ドルであった。
  米国では、このような基金の充実によって高まった教育の質と資金的余裕が、一流の学者と学生を引きつけ、それがまた大学の評判を高めることによって、さらに寄付金を増やし大学のさらなる成功をもたらすという好循環を実現している。また基金の経営についても、しばしばビジネス界から引き抜かれた優秀なプロが財務運営に当たって高い収益率を達成している。
  それに対して、日本の大学では、寄付が圧倒的に少ない上に、最近加速している公的補助の削減と学生数の減少に直面して苦しんでいる。日本の大学がこのような状況下でうまく財務運営をやっていくためには、多くの分野での変革が必要で、例えば卒業生の戦略的な組織化、企業や個人の寄付を促進する税制採用への働きかけ、ブランド戦略の採用、国内外の一流教育コンサル会社との提携などが必要である。それによって寄付を増やし大学に財政的に余裕ができれば、色々な重要分野での改革も可能になるであろう。日本の大学も個人も企業も、大学基金の充実こそが大学だけでなく国の将来を左右するほど重要な結果をもたらすことを認識し、それに従って行動を起こさなければならない。
  以上のような主張に対しては、日本の社会や大学をめぐる状況で寄付による大学基金の充実を議論することは非現実的という批判があるかもしれない。しかしここでの主張の目的は、日本の大学の財務内容をハーバードのようにすべきということではなく、日本では伝統的に社会的目的のために寄付するという文化がそれほど顕著ではないものの、日本の大学は資金力のある個人や企業の寄付を集めて財政的に潤う機会を自ら逃しているという点である。日本の大学は自らを改革することによって教育が学生たちの将来を拓き、社会を豊かにする可能性を示すことができれば、個人や企業も社会も大学に対する対応を大きく変えるのではないだろうか。

英語の原文: "Harvard Endowment Points One Way Forward for Struggling Japanese Universities (with Follow-up Comment)"
http://www.glocom.org/debates/20070907_dolan_comment/
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