今回の安倍首相の辞任については、歴史的な参院選の結果が出て以来、多くの国民がすでに十分に予測していたといえるかもしれない。それにもかかわれず、辞任声明のタイミングがあまりに唐突であったために、日本の政界だけでなく社会一般にも、国際社会にも混乱を与えたように見える。タイミングの問題はともかくとしても、今回の政治の混迷と不確実性は、連立与党が参議院で過半数を失ったために、単に党内のリーダーの交代を超えて広がっていくことは確かである。したがって、これは長期的には、すべての政党を巻き込む政界再編をもたらすことになるかもしれない。
現在「サブプライム問題」がグローバルな金融市場と欧米経済の実質成長にマイナスの影響を与えており、日本を取り巻く外部環境を悪化させているため、このような国内の政治的混迷は日本経済の運営に重大な影響を与える可能性がある。恐らく日本経済に対する最も深刻な影響は、多くの外国人投資家が資金繰りのために売りに回っている東京株式市場を通じてである。この問題に関して何か明確な政策方針が打ち出されなければ、低迷する株式市場が日本経済に少なくとも短期的には悪影響を与えるであろう。
しかしながら長引く可能性のある政治的混乱にもかかわらず(もっとも意外な新リーダーが現れて混乱を収拾する可能性もあるが)、基本的に日本経済は、長期的には着実に成長して、主要産業の代表的企業の利益は今後とも伸びていく可能性が高い。 なぜならば最近の日本経済の復活は、主に民間企業の血のにじむような努力の結果を経済改革が部分的に後押ししたためで、決して政府の従来型の景気刺激策のためではないからである。さらに、新興市場経済、特にBRICsやその他の資源国が、国際金融市場の混乱の影響はあるものの、急速な経済発展を続けて、多くの中産階級の消費者を生み出し、日本のような輸出力のある国からの商品をもっと買うようになる。また国家建設のためにプランと設備なども購入する。その上、資源から得られる資金を海外に投資するので、日本においても欧米の投資家に代わって、それらの国とアジアからの投資家の存在感が徐々に高まり、日本経済を支えるであろう。
もちろん、このようなシナリオが実現するためには、いくつかの前提条件が満たされなければならない。まずこれまでの改革の流れが維持されるか、少なくとも逆転されずに、民間企業の成長や革新を支援する環境を保ち続けること。また農業など問題を抱えた部門の改革と合理化を進めて、日本が新興市場経済とFTAやEPAを締結する上での足かせにならないようすること。さらに、現下の経済問題、例えば経済格差、年金、財政改革、生産性向上といった諸問題に対処する政策的な方針を打ち出すことが必要である。しかし、そのような政策の方針は、現在の政治情勢のもとでは積極的に打ち出すことは難しく、問題がさらに悪化する可能性があり、それがさらに政治混迷を増幅するという悪循環に陥る危険もある。
できれば近い将来、政界再編が行われて、政治力の発揮できるリーダーが現れて、政治と経済の混迷の悪循環が、マクロな経済成長を阻害する前に問題を解決してほしいものである。しかし現実には、政界再編と経済政策の方向が打ち出されて、日本の将来がより明確になるまでには少なくともまだ数年はかかるといわざるをえない。
英語の原文:
"Japan's Political Chaos and Economic Strength"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20070914_kinoshita_japan/