GLOCOM Platform
debates Media Reviews Tech Reviews Special Topics Books & Journals
Newsletters
(Japanese)
Summary Page
(Japanese)
Search with Google
注目記事(2007/10/4)

Opinions:
 
「グローバルビジネスの新しい『日本型モデル』」
 木下俊彦 (早稲田大学教授)
  
  過去数ヶ月にわたる日本の政治的な混迷は、福田内閣の登場で、多少事態が良くなるかもしれないとの期待が内外で高まっている。ただ、政治問題は別にして、日本経済は少なくともマクロ的にはまずまずの状態を維持している。これは多くの大企業の国際競争力の強化と世界のニッチ市場で活躍する中小企業によるところが大きく、それが少子高齢化、格差拡大、グローバルな影響力低下といった日本に関する暗い状況の中で唯一ともいうべき明るい材料になっている。2007年度、日本企業は6期連続増収増益、史上最高の配当支払いを記録、製造業の損益分岐点もここ5年間で大幅に低下している。日本企業は「失われた10年」の間に厳しいリストラを行い、最近では中国や資源国の急成長など良い外部環境にも恵まれ、また危機に直面して特に大企業を中心に内外の状況をよく知る優れた経営者層が現れて強力な指導力を発揮したために、このような成功がもたらされたと理解することができよう。
  しかしながら、すべての日本企業がエクセレント企業で国際競争力があるといえないことはいうまでもない。「エクセレント企業」を探し出すため、仮に主要企業から株価2000円以上、ROE10%以上、ROA5%以上という基準を満たす企業を選抜してみると、もちろんトヨタ、ホンダ、任天堂、ファナック、武田薬品、三菱商事などは選ばれるが、他方新日鉄、JFE、松下、シャープ、東レなど明らかに国際的にも著名で優良な企業が落ちるという常識に反する結果が出てしまう。その点では、日本経済新聞社が発表する「日経優良企業ランキング」は、同社記者のエクセレント企業に関する最新イメージをもとにして、規模、収益力、安全性、成長力という4点から客観的データで補強しているために、我々の常識により合うランキングが得られているようである。
  このような違いが生じるのは、主として株価形成要因によっており、それがエクセレント企業の選択基準とは必ずしも一致しない株価自体の論理で動いているためである。問題は、企業がエクセレントになろうとするよりも、残念ながら自社の株価を上げるように行動することになりやすく、投資家もエクセレント企業の経営目的やミッションを支持するよりも、それとは「独立」に行動しがちだということである。
  ここで強調されるべきは、「日本型モデル」(ステークホールダー資本主義)は「英米型モデル」(株主資産価値最大化資本主義)とは異なるという点である。日本のエクセレント企業は、「改革」を通じて自己の強みに英米型の利点も吸収したハイブリッド型経営に進化した。すなわち、これまでのチームワークを活用したボトムアップ・アプローチに加えて、部分的に英米型の利益を指標とするスピード経営、時価経営、選択と集中、M&A手法、組織のフラット化を導入する「新しい日本モデル」ともいうべき経営を行っている。しかしそれは明らかに革命的ブレークスルー型のイノベーションを求める経営ではない。その一方で、ここでの「改革」とは、これまでのTQCやJITのような「改善」だけではなく、環境や省エネやその他の社会的責任を考慮した企業戦略の再構築をも含んでいる。
  このような「新しい日本型モデル」をいかにグローバルに通用するものにして、外国人投資家にも日本のエクセレント企業を支持してもらえるようにするかが課題である。そのためには、21世紀型ミッションの達成に向けて、これまでのような縦割りのプロジェクト経営ではなく、全体最適化の経営アプローチを採用すべきであり、その実現のために何よりも優れた人材育成と必要に応じた外国人の人材導入を組織的に行う必要がある。同時にIR活動を強化して、投資家の価値観に着目し、十分コミュニケーションを図らなければならない。その上で、エクセレント企業は、新しいグローバル化の中での自らのポジションを常に意識して、品質・市場シェアのアップ(M&Aなどによる)、およびグローバルなニッチ市場に配慮し、全体としての生産性を上げるために、ハードとソフト、製造とサービス、標準化と非標準化、集中とリスク分散などのバランスを取っていくことが大切であろう。

英語の原文: "Toward A More Effective 'Japan Model' in Global Business"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20071004_kinoshita_toward/
. Top
TOP BACK HOME
Copyright © Japanese Institute of Global Communications