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注目記事(2007/10/16)

Opinions:
 
「日本から見た中国経済の発展と課題」
 生田章一 (丸紅株式会社顧問)
  
  日本および世界の視点から見て、2001年の中国のWTO加盟は、近年の中国経済の歴史におけるもっとも重要な展開であったといえる。それは中国が日米始め先進国経済とWTOのルールに基づく公式な通商関係を結ぶことを可能にしただけでなく、予想以上に大きな構造改革を中国社会全体にもたらすこととなった。その結果もあり、中国経済はその後前例を見ないような急激な発展を遂げ、大きな経済的成果を上げたが、その一方で大量消費とエネルギー浪費、環境汚染、貧富格差拡大、都市部の失業悪化、過剰生産能力、インフレ懸念、国有銀行の不良債権などネガティブな構造上のリスクも増大している。その中で日本からの視点で特に注目すべきポイントは以下の通りである。
  (1)日本と中国との経済関係は、フェイズが逐次高度化しつつも、多様な取引が並存する依存・補完関係として発展。これは従来の「雁行型発展モデル」とは異なる発展形態であることに注意すべきである。実際に最近では、拡大する中国市場を期待した日本からの投資が製造業だけでなく、サービス業も含めて活発化しており、例えばソフトウェアに見られるような中国の技術力に期待した取引、投資関係の展開も見られる。また豊富な外貨準備・貯蓄を背景とした中国からの対日投資も増加しており、さらに海外の市場で日本企業が中国企業と補完関係を維持しながら市場展開を始めている。したがって、中国の成長を日本企業の成長にどうビルトインしていくかが課題で、その際に競争よりも共働して市場価値を創造していくことが重要である。この点で、新しいビジネスモデルとなった日本の総合商社の機能とネットワークのあり方が参考になろう。
  (2)規模の大きさのインパクト。今後すべてのビジネスについて、中国で何が起こっているかは避けて通れなくなっている。例えば、中国の鉄鋼生産量は2000年に日本と同レベルだったものが、今やその4倍になって日米欧の合計を上回り、輸出も世界最大となった。このように名実ともに大国となった中国に対し、日本および世界の視点から、特に環境・エネルギー対策、通貨政策、ODA、食品安全などの面で「大国としての役割」を求めていくことも必要である。
  (3)均衡点に達していない成長。中国経済は高度の成長、変化を続けており、その過程の中で、投資環境をとってみても急激に変化している。例えば、WTO加盟以降、人件費が20-30%も上昇している地域も多く、同時にハイレベルの管理能力、技術力を持つマネージャークラスが不足している。また数々の外資優遇施策が廃止されており、エネルギー消費型で環境に影響する産業から技術移転の要素の強い投資をより優先するようになっている点にも留意する必要があろう。
  (4)WTO加盟条件の履行と運用上の問題。WTO加盟時の約束履行について、制定された法律や規制の運用上の諸問題、特に透明性、一貫性、統一性などについての問題が大きい。例えば、アンチダンピングについては、中国自身が世界のトップクラスの発動国になっているが、その運用について透明性のある説明がなされていない場合が多い。また財産、企業、労働、課税などについての国内法も同様の問題を持っており、日本企業に対して「リーガル・リスク」、つまり以前考えられなかったような訴訟も増加している。もちろん、知的所有権問題は、WTOの議定書に沿って必要な法体系は整備されたものの、現実には依然として深刻な状況である。
  (5)最後に我々は、中国の金融・通貨政策に注目すべきで、今後とも元高の進行を抑制し続けることが可能かどうかを見極める必要がある。また中国のアジア市場統合にむけたFTA政策にも注視すべきで、これは、アジア地域全体の中での日本のプレゼンスと経済的地位に根本的な影響を与えるものである。

英語の原文: "Recent Economic Development in China from Japan's Viewpoint"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20071016_ikuta_recent/
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