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注目記事(2007/12/11)

Opinions:
 
「日米中のビジネス交流と相互学習」
 木下俊彦 (早稲田大学教授)
  
  第一に、日本は中国の4%という狭い国土と鉱物資源にも恵まれない中で、今日では世界でも最も豊かで平等で安定した経済水準の国の一つとなり、高品質で妥当な価格の商品・サービスを多数世界に供給している。戦争で日本は近隣国に多大な迷惑をかけたが、自身も焼野原となり、文字通りゼロからのスタートとなった。したがって戦後日本経済の再生は、米国技術の導入と自己努力による製品の品質改善から始まった。日本は米国から多くを学び、その結果70年代の石油危機を乗り切り、世界市場で大きなシェアを持つに至った。日本製品は、80年代初頭には米国産業の脅威と見なされるまでになった。
  しかし、80年代の日米経済摩擦および誤った金融政策によって、日本は急速な円高、バブル経済に見舞われ、その後経済再生に苦難の十年超を余儀なくされる。中国政府・企業・国民は、こうした日本の試行錯誤の過程から多くを学び、今後の経済発展につなげることができる。日中は距離的にも近く、人の往来も多いので、両国民は歴史に鑑みてお互いから学び合い、間にある文化的・社会的障害を克服して、お互いの繁栄という共通の目標を達成すべきである。
  第二に中国の(特に広東省やその他先進地域の)読者に注意を喚起したいのは、戦後日米間には摩擦や緊張もあったが、日米のビジネス界は相手の優れた点を学習し合って切磋琢磨したという事実である。そのもっとも良い例の一つは、日本が1950年代に当時米国で無名だったE.デミング博士を招き、同氏の優れた科学的品質管理を導入し、輸出品の品質検査体制を充実した結果、日本製品の品質は大いに向上し、ハイテク製品でも米国を凌駕するパフォーマンスを見せたことである。
  これに対して、米国企業は80年から90年代にかけて、日本が作り上げた顧客の希望をかなえる多品種少量生産商品作り、品質を上げつつコストを下げるJIT、グループ企業と連携した新製品開発など日本のビジネスモデルや優れた社内研修システムなどを導入し、もともとの創造性などの自己の強みとIT技術を組み合わせて全体最適化を図り、多くの産業分野で競争力を向上させた。それに米国政府の戦略が加わって、90年代半ばには米国経済は再生した。
  90年くらいからの10年あまりは、今度は日本企業が米英流経営モデルの中から、意思決定の迅速化、資本効率を示す指標の導入、集中と選択、M&Aの頻繁な利用、成果主義などを取捨選択し、それと従来のチームワーク、カイゼンを通じる機械や部品の社内生産の強化、高いR&D比率の維持、ブラックボックス化など自己の強みと合体させ、私が数年前から主張してきた「混合型日本的経営」によって、グローバル経済の急速な変化に対応した生き残りを図っている。
  第三に、日中の経済関係について、産業構造の高度化を進めつつある中国の広東省やその他の先進地域では、日本企業が中国企業や地元社会との関係強化を図るのは必然的な流れであり、それも生産や流通の分野に限らず、インフラ投資やサービスの分野でも、中国企業との協調が深まるであろう。そこで中国企業が日本のビジネスアプローチから学べるものは大きい。特に米ビジネススクールでは学べないような日本のきめ細かな気配りでサービスの質を高めるアプローチに注目すべき。また今後増えていく中国企業による日本の中小企業買収にあたっては、ハードよりも日本人の学習・改革能力、機転、協調精神といったソフト面を十分に考慮しないで進めると、結局高い買い物になってしまう。資金あればうまくいくという態度は日本では危険である。さらに中国企業が留意すべき点として、人口大国における「もの作り」の重要性、コンプライアンスの重視、バブル経済を避ける一層の努力、自己研究開発の重要性などが指摘できる。
  最後に、中国企業がアジアで成功している日本企業や米国企業などからが学ぶべきものは、ブランド戦略および知財管理についてである。多くの米系多国籍企業は、世界市場で圧倒的なブランド力を確立している。グローバルな市場で普及品の競争がますます厳しくなる中で、ブランド戦略は決定的な重要性を持ちつつあり、日本企業も生き残るために、研究開発への投資をさらに進めて、自己の強みを徹底追及し、アジアでも世界でも消費者の嗜好を満たすような商品とサービスを提供している。また、中国企業は日米企業だけでなく、自国や地域の優れた強みを生かした企業のサービス分野のサクセス・ストーリーからも多くを学べるであろう。

英語の原文: "Business Interaction and Mutual Learning Among Japan, the US and China"
http://www.glocom.org/opinions/essays/
20071211_kinoshita_business/
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