日本の製造業は高い国際競争力を持っているため、これからも日本は「ものづくり」中心で行くべきだという見方が依然有力である。しかし、今では製造業も国際的な展開を図ることを余儀なくされており、中国などとの競争に直面して国内の雇用は縮小しつつある。つまり雇用や税収を考えると、今後は非製造業に頼っていく以外にないという結論に達する。
しかしながら、日本の非製造業は生産性の水準も伸び率も低いという問題があり、これを解決しなければ日本経済の前途は危うい。以上の観点からすると、金融産業の強化は次の2つの意味で極めて重要である。第1に、金融産業はそれ自身が有力な非製造業の一つである。第2に、金融産業の本来の機能である統治機能が有効に発揮されれば、他の産業の生産性向上が促進される。
こうした認識から日本の金融資本市場の競争力強化について改めて議論が行われているが、特に金融庁を中心にとりまとめられているプランでは、取引所の強化および銀行と証券にかかわるファイアウオール規制の見直しを重点施策として取り組むことが要請されている。
まず取引所の競争力強化が非常に重要で、金融資本市場の競争力と金融産業の強化には、「重層的な市場構造」が必要であり、それによって「市場型間接金融」と呼ばれるタイプの活動を拡大することが求められる。ここで「市場型間接金融」には、資金運用者と市場をつなぐタイプ(例えば投資信託や年金基金)と、市場と資金調達者をつなぐタイプ(例えば証券化の手法)があり、これら2つのタイプが市場を通じてつながれば、最終的な資金運用者と資金調達者までの資金チャンネルが多段階的な構造を持って貫徹するために、より効率的なリスクの加工や分散が可能となるであろう。
「取引所の取扱商品の多様化」や「プロに限定した取引の活発化」などは、まさにこの重層的な市場構造の構築の促進を意図したもので、例えば、商品先物関連のETF(上場投資信託)が証券取引所に上場されるようになれば、一般投資家は自ら直接に商品先物市場に参画しなくても、実質的にそれと同様の投資機会をもつことができる。一方、参加者をプロに限定した場合は、自己責任原則を基本に公的規制は最小限にして、自由な活動を促進することが可能になる。リスクの大きな商品先物や新興企業株式などは、高度な情報収集・分析能力が必要なので、プロ向け市場であるといえる。
ただし、市場型間接金融が発達し進化すると、エージェンシー(受託・委託)関係も重層化する。したがって、金融機関が委託側の一般投資家や資金調達者の利益を十分に尊重した行動をとることが不可欠となる。もし金融機関が自己の利益や特定の顧客の一方的な利益のみを優先するならば、市場型間接金融の基盤が崩れてしまう。もう一つの重要な論点である「銀行・証券間のファイアウオール規制の見直し」もこのような文脈で理解すべきである。このファイアウォール規制の見直しは、利益相反の弊害防止や銀行の優越的地位の乱用防止といった目的を放棄することでは決してなく、金融機関の自己規制によって目的の実現を図るということにほかならない。
今後、金融機関は利益相反などの問題を解決すべく内部統治体制の整備を求められ、その実効性を規制当局のモニタリングを通じ検証されることになる。これは規制の枠組みが一層事後チェック型に変わることを意味する。金融機関は規制緩和に見合う自己規律を発揮できるかが問われており、その試練を克服するならば将来飛躍が可能であろう。
英語の原文:
"Toward More Competitive Tokyo Market: Deepening Market-based Indirect Financing"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20071225_ikeo_market/