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注目記事(2008/2/12)

Opinion:
 
「海外における日本的経営のジレンマと課題」
 木下俊彦 (早稲田大学教授)
  
  海外の日系企業で働く外国人から聞かれる日本人管理職に対する不満は、「会合をだらだらと続けて、しかも何も決まらない」、「会合で自分の本音を言わない」、「いつもだらだらと残業をしている」、「自分の生活や家族をかえりみない」というもの。これは決して20年、30年前に海外で聞かれた不平不満ではなく、実は著者自身がつい2、3週間前に、欧州の日系企業で働く十数名の現地採用者から直接に聞いたものである。深刻なのは、これが決してたまたま出くわしたケースではなく、アジアでも(特に企業進出の歴史の浅い中国で顕著であるが)欧米でも、今日の日系企業で広く観察される現象ということである。もちろん、それに当てはまらない優良企業がないわけではないが、それは例外的といってよいほど少数にとどまっている。
  我々日本人は希望的観測で、日本企業がグローバル化に向けて、徐々に進化を遂げて、海外ビジネス拡大のために日本的経営を修正し、異文化コミュニケーションの能力を高めてきたはずであると信じる傾向がある。実際に、多くの企業が海外ビジネスから多くの収入や利益を得るようになっており、日本企業は輸出や海外直接投資の面でかなり成功しているように見える。それではなぜ海外で雇った人材のマネージについては、20年来進歩がないのであろうか。それは日本企業の海外ビジネスにマイナスの影響を与えている、あるいは与え始めているのではないか。もしそうであれば、ここを改善すれば大きな効果を期待できるのではないだろうか。
  しばしば指摘されるように、ビジネスの内容や関係が複雑化している今日、日本的な意思決定、コミュニケーション、人的資源管理の方法は、それらを国際的なスタンダードに合わせようとするプレッシャーと齟齬を起こしており、ますます国内外でそれが明白になってきている。特に日本国内と違って、海外でそのような問題を隠したり無視したりすることが困難なのは、現地の従業員、特に有能な人材は、典型的な日本人のように従順でなく、あからさまに不平を言ったり、あるは辞めてしまうからである。しかし、多くの場合、現地の日本人管理職はそのような事態に適切に対処する権限も不明確にしか与えられていないうえ、異文化経営の訓練も受けていないため、問題がそのまま何年にもわたって、時には何十年にもわたって放置される結果になるといえる。
  このような経営の問題があるにもかかわらず、多くの日本企業は、とりわけ伝統的な製造業では、海外でのビジネスを成功裏に進めてきた。それは製造業においては、生産における技術や生産性が、国内でも海外でも主要な成功要因として働いたからである。しかも、生産技術移転の対象はブルーカラーであり、この面では日本企業は欧米企業よりもうまくやっているといえる。問題の多くは、ホワイトカラー、特に現地管理職との間で起こっている。
  実際に、日本では金融を含むサービス部門一般が非効率で国際競争力がないことはよく知られている。それはまさにサービス部門一般のビジネスパフォーマンス改善にとって重要なホワイトカラーの人的資源をマネージする面が本来的に弱いこと(それに関連して、日本流のサービスがIT化など合理化になじみにくいこと)のためといえよう。日本が製造業の分野では途上国に追い上げられ、グローバルなビジネスの洗練されたサービス部門に向かわざるをえなくなっている今日、世界の市場において日本企業は、欧米の企業だけでなくいくつかのアジアの企業と比べてもその存在感や競争力が低下しつつある。したがって、海外での現場からの警告のサインを見落とすことなく、グローバルな観点から自らの経営方法の根本的な問題を見つけて対処することが必要である。
  まず日本企業は、管理職および一般雇用者についてそれぞれの役割と義務をより明確に定義し、説明するとともに、日々の意思決定とコミュニケーションの方法についても透明性と説明責任を問わなければならない。これをまず本社から始めれば、おのずから海外の支店に伝わっていく。いうまでもなく、本社と海外支店ないし現地法人との関係についてもそれぞれの役割と義務の透明性と説明責任をより明確にすべきであろう(この点で、最近「内部統治」の強化のために本社による海外支店や現地法人のコントロールを一方的に強めるのは問題)。これらのことは、現地採用の管理職に現地のビジネスを任せて成功するための前提条件となる。
  さらに以下の3点が重要である。(1)海外駐在の決まった、あるいは将来海外派遣の可能性の高い日本人管理職に、現地事情や異文化経営などをもっと徹底的に訓練し研修すること、また現地採用者、特に管理職は日本に来る機会を作って、日本のビジネス環境のもとでどのように物事が決められて進められているかを見てもらい学んでもらう機会を作ることが重要である。(2)現地管理層との良好な信頼関係を構築しつつ、現地内部人事の登用(できれば、トップまで)を加速することである。(3)こうした問題の解決を、担当部署にまかすだけでなく、本社のトップが、自ら勉強しつつ、イニシアティブをとることである。少数ではあるが、うまい海外経営をやっている企業は、以上の3点で優れており、その円滑化のために、海外要員研修所を作っているところもある。
  今や日本全体としてグローバル化する世界の中で生き延びるために自己改革をする必要がある。それも手遅れになる前に行動を起こさなければならない。さもなければ、若い世代が働く意欲もコミュニケーション能力も技術力も何もかもなくしていって、近い将来日本をめぐる状況が急速に悪化する可能性が高いといえよう。

英語の原文: "Japanese Management Overseas: Dilemma and Challenges"
http://www.glocom.org/opinions/essays/
20080212_kinoshita_japanese/
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