最近、日本の国際的な存在感や競争力が低下しつつあることが指摘されている。この問題に取り組むためには、まず国際競争力とは何かを考える必要がある。
一国の経済水準は、グローバル企業など国際競争部門の生産性だけではなく、その国の産業全体の生産性で決定される。日本の場合、GDPの15%を占める輸出産業の国際競争力が重要であることは確かであるが、農業、建設、流通といった残りの85%の産業の生産性がもっと重要である。日本の将来の成長は、国の内外を問わない生産性によって決定される。
日米の産業ごとの労働生産性を比較してみよう。産業別の生産性を正しく比較するためには、産業別の購買力平価を国際価格として使って測った産業別付加価値を、それを生み出すために用いた労働時間で割って生産性を計算する必要がある。その上で、産業ごとに米国を100として比較すると以下のことがいえる。
(1)全産業の生産性は米国の6割に満たない。(2)全産業の生産性は91年までは上昇(対米格差が縮小)していたが、その停滞し、「失われた10年」がここでも表れている。(3)なかでも生産性が上昇した産業と停滞した産業があり、電力・ガス・水道、建設、郵便・通信は生産性が上昇し、農業は停滞ないし低下、製造業、卸・小売り、金融・保険・不動産業は平均的動きであった。
農業の推移は予想通りだが、製造業は意外な結果である。そこでさらに詳しく見ると、製造業の中でも、特に食品の生産性が低く、電気・光学機械でもコンピュータ部品や製品開発で苦労しているため平均的レベルにとどまっており、また輸送機械も自動車はよいが、造船、航空、鉄道などの生産性が低いことが分かる。
したがって、日本の生産性を高めるためには、まず農業を始め、卸・小売り、金融業や、さらに建設、電力などでも、より一層の規制緩和と参入の促進が必要であろう。また米国の生産性向上が、新しい産業を生み古い産業を捨てることによって達成されたことに鑑みると、日本でも雇用を守る名目で既存の産業を維持するのではなく、古いものを捨てる「勇気」を持ち、国家レベルで「選択と集中」を断行しなければ生産性の向上はありえない。
例えば、事業再編のためにM&Aをやりやすくしたり、新しい経営技術を導入するために積極的に外資の進出を歓迎すべきであろう。
英語の原文:
"Improve Japan's Productivity by Selection and Concentration"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20080221_harada_improve/