金融行政の質が、人材の質と量と並んで、金融資本市場の競争力を左右する最も重要な要因の一つであることは国際的に広く認識されている。
金融資本市場においては「信頼」が大切で、不公正な取引は断固許さないという厳格な規制監視当局が、信頼の最後の拠り所として不可欠なものである。この側面において、規制監視当局は、こわもての存在でなければならない。もし規制監督がルーズなもので、投資家保護に欠けるようなところがあれば、金融ビジネスの長期的繁栄はありえない。
しかし同時に、規制監督当局は市場参加者の自由な活動を阻害してはならず、さらに積極的に金融資本市場におけるイノベーションを促進していく必要がある。この側面からは、規制監視当局は市場参加者の創意工夫を支援し、ビジネスを促進するような存在でなければならない。
ただし、不公正には厳しいこわもての側面とビジネス促進的な側面とを両立させることは難しく、この二側面をどれだけうまくバランスをとって実現できているかが問われている。その実現度によって市場参加者から見た規制環境のよしあしが決まることになる。
こうした観点から見た規制環境の質に関して、日本の金融行政はこれまで決して高い評価を得てこなかった。近年において金融庁は「金融処分庁」と陰で呼ばれるまでに、前者の側面では評価されてきている。しかし、ビジネス促進という後者の側面に関しての評価は低く、二面を巧みに両立できているとはいえない。
実際、金融庁自身によっても規制環境の質の向上の必要性は認識されており、それが金融行政における大きな課題として位置づけられるようになった。昨年末にまとめられた「金融資本市場競争力強化プラン」においても、「より良い規制環境の実現」が大きな柱の一つとして掲げられている。
それを実現する際に重要なのは、当局側の努力とともに市場参加者の側の積極性であろう。規制環境は上から与えられるものではなく、当局と市場参加者の共同作業によって形成されるものだからである。
英語の原文:
"For Improving the Quality of Financial Administration in Japan"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20080310_ikeo_for/