4月17日に海外特派員協会において、経済財政諮問会議のメンバーである伊藤隆敏東大教授が、「東京を一流の国際金融センターに」というテーマで講演を行った。その講演では、経済財政諮問会議の金融・資本市場ワーキンググループで現在検討されており今年5月に公表予定のこのテーマに関する政策提言レポートに、どのような点が含まれ、強調されるかが示唆された。
まず伊藤教授は、日本が人口の高齢化など、さまざまな問題と課題に対応して、生産性と生活水準を維持し改善していくためには、もっとオープンな国になる必要があると主張。そうすることで、例えば中国を始めとするアジアの高成長の恩恵をもっと受けられるようになる。この点で、金融サービス産業は成長をもたらす一つの原動力であり、特に日本でその役割は重要である。なぜなら、日本の家計、企業、政府がこれまでに蓄積した巨額の資産を、金融サービス産業を通じてより積極的に動因し活用するならば、経済全体を大いに刺激する効果を持つと思われるからである。
このような背景のもとに提起される問題は、いかに東京市場をロンドンのような一流の国際金融センターにするかということである。ここで伊藤教授は、よりよい「場」と「プレーヤー」と「アンパイヤー」という三つのキーワードに言及する。よりよい「場」を整備するという点では、東京証券取引所の改善が必要で、特に証券取引に商品・穀物先物取引を統合することが重要である。そのためには商品取引を規制している関係省庁の規制を見直さなければならない。またよりよい「プレーヤー」を引きつけ、特にリスクマネーをもたらす外国人投資家にプライベートなエクイティファンドなどを東京市場に持ってきてもらうためには、他の国際金融センターと同じように投資家に対して「友好的」な投資環境を提供するよう税制や規制のあり方を改革する必要があろう。もちろんこのことは、よりよい「アンパイヤー」のあり方に密接に関連しており、金融庁がもっと市場監視監督行政を透明なものにするために、原則重視のアプローチを取るといった方向が望まれる。
日本の金融・資本市場に関連する重要な問題の一つは、いかに蓄積した資産をよりよく運用するかということである。例えば家計部門には約1500兆円が、また公的年金基金には約150兆円が、さらに外貨準備として約100兆円が蓄積されているが、それらはあまりうまく運用されていないのが実情である。日本では一般に、低利にもかかわらず、「安全」な銀行預金や国債に投資する傾向が非常に強く、その一方でリタイアした高齢者がリスクのある株式投資をよく行うといった、経済学の教えに反する資産運用が行われている。外貨準備会計については、米国債の保有から上がる利子所得の一部が、現状では一般会計の赤字を埋めるために使われているが、そのような利子所得は将来の為替レート調整から生じるロスを相殺するために全額別扱いにして、よりよい運用がなされるべきである。いずれにしてもこれらの蓄積した資産の運用が改善されれば、それは東京市場だけでなく日本経済全体に大きなプラスの効果を持つであろう。
以上のような内容の伊藤教授による講演の後、外国人記者から多くの質問が出された。特に海外のファンドによる日本企業への直接投資を規制する動きと、それが東京市場の評判に対して持つ影響について質問が集中した。それに対して、伊藤教授は、個人的な意見としてそのような動きには反対であるが、ただし純粋に民間企業間のケースでは、外国人投資家による買収を受け入れるかどうかはあくまで株主の決定次第であるという点も付け加えた。
英語の原文:
"Prof. Takatoshi Ito's Talk at FCCJ: 'Making Tokyo a First-Rate International Financial Center'"
http://www.glocom.org/special_topics/
activity_rep/20080421_miyao_fccj/