日本では「政・官・財」挙げて米共和党びいきであることはよく知られている。これは共和党政権が、日米安保条約をアジア政策の柱とみなしており、また自由貿易主義を信奉して保護主義に反対するという印象であるのに対して、民主党政権はクリントン政権時代の名残もあり、中国重視で日本は「ジャパン・パッシング」といった扱いを受け、また保護主義的傾向を持つので貿易摩擦も激しくなるのでないかというイメージが強いためである。
しかしこのような民主党政権への憂慮や警戒は必ずしも正当なものでなく、特に今回のマケイン候補とオバマ候補に対しては当てはまらない。むしろマケイン政権のほうが警戒を要するといえる。
まず、マケイン候補が主張している「民主主義リーグ」は、中国を排除するという点で、日本にとっては不都合なアプローチである。日本は他のアジア諸国と並んで、経済的にも社会的にも中国との協調的な結びつきが進んでおり、いまや中国を外したアジア地域でのフォーラムを形成することは、日本の外交オプションとして考え難くなってきているので、マケイン候補の主張は日本にとってマイナスと言わざるをえない。それに対して、オバマ候補のアプローチは、中国を含むより包括的な連携を考えているようで、日本にとっては問題が少ないであろう。
第2に、ロシアに対する姿勢についても、基本的に中国と同じことがいえる。実際に、マケイン候補が「民主主義リーグ」の形成を主張する場合に、対応する相手として想定しているのはロシアで、このところ西側に対して資源外交を振り回す大国として復活しつつあるこの権威主義的な傾向を強めている国をチェックしようとする意図が見える。だが、このマケイン候補のアプローチは、アジア地域でロシアとの関係を改善しようとする日本にとって必ずしも都合の良いものではない。
第3に、中東問題については、マケイン政権下のほうがオバマ政権下よりもイラク戦争は長引くであろうし、またイランの核開発計画に対する対応もより強硬になる可能性が高い。マケイン政権の場合は、来年中にもイランの核開発がある臨界点を超える可能性があるので、これに対して強硬措置に出る可能性もあるところ、そのような気配だけで原油価格は大きく跳ね上がって、世界経済に大きなマイナスの影響を与え、特に原油の輸入に依存する日本のような国にとっては深刻な状況になるかもしれない。
いずれにしても、マケイン政権はオバマ政権に比べて、その思想的な立場から一方的な行動を取る可能性が高く、その際に世界に対して与える影響や反響はオバマ政権に比べて十分に考慮されないであろう。さらに日本はそのような行動に対してより多くの貢献を要求されることはほぼ確実である。他方、オバマ政権ではより広く配慮された対話重視の外交になり、例えば日本の安保常任理事国化についても、国連改革についても、ブラジル、インド、ナイジェリア、南アの役割強化を主張していることは、日本の改革案と整合的な進め方をすることになるであろう。ブッシュやマケインの日本だけサポートというのは現実にはノーに等しく、受け入れられないと思われる。
以上、マケイン政権のほうがオバマ政権よりも日本にとっては問題が多いこと指摘した。では、何が日本にできるか。実は、日本が大統領選挙の帰趨は言うまでもなく、両候補の方針に影響を及ぼす余地はほとんどない。だが、少なくとも、一部で見られるような、この段階で共和党への支持を表明したり示唆したりすることは、日本の国益にとってはマイナスであることがはっきりしている。むしろやるべきことは、今回どちらの候補が大統領に選ばれようと困らないように、両陣営のリーダーやアドバイザーたちとより積極的にコンタクトして意見交換を行い、日本の立場や目的を明確に表明しながら日米共通の目的を達成するために協力関係を深めることである。そうすれば今後日米間で起こる問題を処理しやすくなり、対米だけでなく対アジア諸国との関係の現在の良い流れを将来にわたって維持していくことが可能となるであろう。
英語の原文:
"Regime Change in America: Implications for Japan"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20080623_okumura_regime/