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注目記事(2008/8/25)

Opinion:
 
「日本における経済教育の問題点」
   篠原総一 (同志社大学教授)
  
  経済を中学や高校で教える際に重要なことは、教師が経済の制度、組織、政策などの役割やメカニズムに関するストーリーやメッセージを生徒に伝えることである。そのようなストーリーやメッセージがなければ、生徒はただ習った経済の制度や出来事の名前や概要を暗記するだけで、自分の生活を左右する経済的な影響力について論理的かつ総合的に考える力が付かないであろう。
  この点で、日本の経済教育に関する大きな問題は、中学や高校で使われる経済・社会の教科書の内容であり、そこでは主に経済の制度や出来事の断片的な描写だけで、様々な経済現象の意味を理解するための論理的な説明が欠けている。さらに言えば、そのような科目を教える教員の多くは経済学を専攻したり勉強したことがなく、むしろ歴史や地理や倫理の分野の出身者であるという問題が加わる。したがって、教員自身がいかに努力して教科書を読んで準備しても、経済の授業を効果的に行うことができないという結果になる。
  日本におけるもう一つのマイナス要因は、受験が中学高校の授業に与えるプレッシャーである。ほとんど例外なく、入学試験問題を作る人たちは教科書に書かれていることを取り上げ、それ以外のことに関する問題を出すことはない。他方、教科書を書く人たちは入学試験問題を詳しく検討して、その答えを教科書に書くように努力する傾向がある。したがって、これは一種の「囚人のジレンマ」をもたらし、入試問題担当者も教科書の著者もお互いがカバーする範囲の中から出られず、経済・社会の科目の場合は、経済的・社会的な現象の単純で断片的な描写だけを記憶させるだけで理解させようとしない結果をもたらしてしまう。
  経済的なメッセージについては、生徒たちに「市場のメカニズム」を教えるべきであり、それが単に需要と供給を一致させるだけでなく、その結果として(もちろん一定の条件のもとに)希少な資源の効率的な配分を達成することを伝える必要がある。この後者の市場機能が、日本における中学・高校のほとんどの教科書でうまく説明されていないので、先生が生徒たちにこの重要なメッセージを伝えることができていない。このメッセージが入門的なミクロ経済のレベルで伝えられなければ、国際経済の応用分野において貿易の利益などをスムーズに教えることができないであろう。
  もちろん市場が、所得や資産の分配の問題はさて置いても、独占や外部性や公共財があるため資源の効率的配分に失敗するという理由で、市場経済を不完全なものと批判することは可能である。しかしその際に強調すべきは、政府もまた失敗するということである。実際に日本が現在直面する多くの問題、例えば年金問題、官僚の介入や無駄の問題などはすべて政府の失敗に関係しているといえる。したがって、生徒たちに市場対政府についてよりバランスのとれた見方を身につけさせるためにも、中学・高校のレベルで市場の「見えざる手」についてもっと強いメッセージを与えるべきである。
   その目的実現のために、日本の経済学者は中学・高校における経済分野の教科書の質を高めたり、また中学・高校の先生方の研修を行うことについてもっと積極的な役割を果たすことができるし、また果たすべきであろう。つまり、多くの著名な米国の経済学者がすべての教育段階における生徒と先生の経済リテラシーを高めることを目的とする団体「NCEE(http://www.ncee.net/)」の活動に貢献しているが、それを日本の経済学者も見習う必要がある。私どもは最近「経済教育ネットワーク」(http://www.econ-edu.net/)を立ち上げて、日本の経済学者同士、また経済学者と中学・高校の教員、さらには私的および公的部門の経済教育専門家をネットワークで結ぶことを試みている。このような活動により多くの人が参加して、日本における中学・高校の先生や生徒にかぎらず、一般の人たちの経済リテラシーを高めることに貢献してほしいと思う次第である。

英語の原文: "Main Issues on Economic Education in Japan"
http://www.glocom.org/opinions/essays/
20080825_shinohara_economic/
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