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注目記事(2008/9/16)

Opinion:
 
「真の消費者利益と『安全・安心』:介入の口実にするな」
  福井秀夫 (政策研究大学院大学教授)
  
  福井氏は英語の論文(以下のリンク参照)において、安全・安心の確保や消費者の保護は重要であるが、手段次第では国民や消費者の利益をかえって損なう可能性があることを指摘する。単に当局の介入を強めることは、しばしば弱者の利益を奪い、既得権者を利するだけである。特に、安全・安心をうたう昨今の政策について懸念をぬぐえないケースを以下検証する。
  第一は、大分県教育委員会の不祥事で、これは公教育が一定の質を全国的に保証する「安全」なものという信頼を裏切った。特に子供の義務教育はいわゆる価値財で外部性もあるが、公立学校である必然性はなく、教育委員会が民意を反映しない結果、社会的に見て不当な運用がなされがちであったといえる。
  第二は、日雇い派遣を禁止すべきという議論で、これは危険業務による事故が多いことやワーキングプアの原因となっていという理由からであるが、日雇い派遣を一律に禁じるのは労働者の選択を狭めることになる。正規雇用至上主義の法制を改めないまま日雇い派遣を禁止することは副作用が大きすぎる。
  第三は、タクシーの参入と増車に対する規制を強化する動きであるが、事故の増大や賃金低下が理由となっている。しかし事実は、規制が撤廃されて以来、事故率も賃金率も横ばいであり、規制強化は既存の業者には好都合だが、新規参入者を阻害し、労働者間の格差を拡大させる傾向があろう。
  第四は、コンビニの深夜営業を制限しようとするもので、環境負荷の低減と「正常」なライフスタイルの回復という理由のようである。しかし、深夜営業制限の環境負荷に対する効果は少なく、むしろ他の小売店を利する一方で、消費者や勤勉なコンビニ経営者にマイナスに働く。また当局がライフスタイルに関する規範を押し付けるのは憲法で保障された個人の価値を破壊するものである。
  第五は、 ワンルームマンション建設を禁じる条例が増えていることで、このような規制は財産権の侵害であり、居住移転の自由を制限するものでもある。底に住む単身者の多くは弱者なので、格差を助長する恐れもある。
  第六は、薬の販売について「対面販売の原則」を推進し、インターネット販売を原則禁止にするという動きがある。これは既得権をもつ販売者や薬剤師などを利するだけで、新規に参入業者や消費者一般の利便性を損なうものである。
  本当の安全・安心や消費者の利益は当局の介入だけでは守れない。安易な介入は社会的弱者の権利や利益を侵害し、既得権を持つ特定利益団体と官僚機構を太らすだけである。憲法が守る権利は世界にも誇れるものであり、それが権力によって侵されることがないようにしなければならないと福井氏は述べている。

英語の原文: "Safety and Security" and True Consumer Benefit: No Excuse for Government Intervention
http://www.glocom.org/opinions/essays/20080916_fukui_safety/
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