日本は高齢者比率が世界に類を見ない速さで増加している高齢化社会であるが、そのなかで社会の活力を維持するためには、働く意思と能力のある高齢者にはできるだけ長く働いてもらえるような「生涯現役社会」を築かなければならない。それにはどうすればよいかを議論するためにも、現在の高齢者雇用の実態を見ておく必要がある。
第一に、高齢就業者の趨勢は、過去30年ほど一貫して増加しており、60歳以上の就業者数が1975年の480万人から2007年の1003万人になっている。これは就業者全体の平均の伸び率をはるかに上回っている。これは基本的には高齢人口の増加によるものであるが、高齢者に対する需要と供給の関係にもよっている。これらを順に見てみよう。
高齢者の労働供給は、高齢人口とその労働力率の積で表されるが、前者は伸びているのに対して、後者は低下傾向を示している。最近の実証研究によると、高齢者の労働力率は、健康、公的年金および定年退職制度という三つの要因に依存しており、他の条件を一定とすれば定年制は高齢者の労働力率をほぼ2割程度低下させている。
需要側では企業は特に高齢者を積極的に雇用しようとはしていない。それは多くの企業がいまだに定年退職制度を維持しているという事実からも明らかである。最近の高年齢者雇用安定法改正により、企業に対して65歳までの雇用を確保する措置を講じるように求めているが、定年を迎えた高齢者の希望者全員を継続雇用している企業はまだ半分程度にすぎない。
高齢者の雇用の質については、定年退職後に希望が多い正社員の扱いは少なく、ほとんどが嘱託・契約社員となっている。その結果賃金もかなり低くなり、またこれまで長年培った能力を十分に生かす仕事についている人もかなり少ないようにみえる。
高齢就業者は近年急速に増えてはいるものの、以上のような問題点を抱えている。特に、定年退職制度が、高齢者の就業意欲を低下させ、またその能力の十分な発揮を大きく阻害している。定年制は年齢だけを理由に退職を強要するもので、「生涯現役社会」の視点とは真っ向からぶつかる。日本でも、アメリカやEU諸国のように、年齢差別禁止ルールの導入と定年退職制度の抜本的見直しを、政労使で真剣に考えるべき時期に来ているのではないだろうか。
英語の原文:
Reexamination of Mandatory Retirement System in Japan
http://www.glocom.org/opinions/essays/20080922_seike_reexamine/