原田泰氏は英語の論文(以下のリンク参照)において、このところ政治家の間で、財政再建をこれ以上進めることは不可能で、社会保障関係費の大幅な削減は問題外なので、増税は避けられないという意見が強まっていると述べている。しかし、政府の「骨太方針」で示された歳出削減を実行するならば、少なくとも団塊世代が75歳以上になるまでは増税は不必要であることが、この論文で示される。
まず「社会保障関連」の歳出については、2011年度に38.3兆円を目指しているが、国庫負担分の増額を除くと、36.0兆円だから、2006年度の31.1兆円から年率3.0%の上昇となる。消費者物価上昇率を1%とすると、実質で年率2.0%の上昇である。この間の65歳以上人口の伸び率は2.2%なので、このような歳出削減は現実的で実現可能である。
次に、「人件費」については、2011年度において32.4兆円で、2006年度の30.1兆円から年率1.5%、5年間で7.6%の伸びである。2010年度までに公務員の5.7%以上の定員純減が決まっているので、一人当たりの名目賃金は14%、年率2.7%の伸びになる。これは民間に比べると甘すぎるので、さらなる削減の余地があるだろう。
第3に、「公共投資」は、2006年度の18.8兆円から2011年度の16.1兆円まで削減される。これをもう少し続ければ、公共投資のGDP比率が欧米諸国並みに落ち着くことになり、実現可能な目標である。
最後に「その他」の歳出については、2006年度から2011年度まで、ほぼ現状の歳出レベルを維持する。にわかに教育費の増額を求める声が噴出しているが、歳出を増やすべきでない。
さらに注意すべきは、増税の不況効果である。例えば消費税1%の引き上げで、2年目に実質GDPを0.25%引き下げる。これはたいしたことはないと考える人もいるかもしれない。しかし今のように景気が悪いときには、増税の悪影響はもっと大きくなり、税収が少しも増えないということが起こりうる。
日本における経済と財政状況を歴史的に振り返ると、好景気で税収が上がれば政府の支出は増え、景気が悪くなり税収が減れば、支出を絞るということの繰り返しであった。これが意味するのは、もし増税されれば、歳出はカットされるどころか、かえって増えるということである。したがって、増税よりも、財政赤字をテコとして財政支出の効率化を図ることが、日本経済の強化と財政改革につながると、原田氏は述べている。
英語の原文:
How to Succeed in Fiscal Reform without Tax Increases
http://www.glocom.org/opinions/essays/20081006_harada_how/