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注目記事(2008/11/25)

Opinion:
 
「世界同時不況を日本が克服するために」
  伊藤隆敏 (東京大学教授)
  
  伊藤隆敏教授は英語の論文(下のリンク参照)において、ほんの2年ほど前には、米国内の住宅・金融問題が大規模な金融危機と世界的不況に発展するとはほとんど誰も予想していなかったが、今や世界が不況に落ち込むことはほぼ確実になったと述べている。
   米国発の危機が世界経済に広がる経路には、株価の連動、為替レートの変動、リスク敏感度の上昇、実体経済への影響という互いに増幅し合う四つのチャンネルがある。
  株価の連動ついては、米国の多くの金融機関が極端な資本不足に陥り、預金引き出しが予測されたため世界中の保有資産を売却してそれに備えるために世界中で株式などが売られて株価が同時に下落する。また資金を米国に引き上げるため、米ドルが円を例外として他の国の通貨に対しては上昇する。日本が例外なのは、金融システムがまだ比較的強いことと、円借り取引の手じまいが進んでいるためである。
  一つの問題はリーマン・ブラザーズの破たん以来、リスクへの価格付けが世界中で高まっており、リスクを恐れて新規の貸し出しを行う者がいなくなったことである。その結果の世界規模での貸し渋りが、企業の投資意欲を冷え込ませ、実体経済に大きな影響を及ぼしつつある。
  今や実体経済の悪化が大きなリスクとなっており、2009年度は世界の主要国でマイナス成長が予測されている。特に米国への輸出に依存するアジア諸国の景気悪化と、原油や商品の相場の下落を続けているので、産油国や資源国の経済もこれまでの勢いを失っている。
  日本は円高で苦しんでいるが、日本の超優良なグローバル企業は現地生産化を進めてきたので、それほど大きな影響を受けない。しかし、どの国で生産するかは、通貨価値、生産コスト、税制などに依存するので、日本国内の生産コストを引き下げなければ、日本企業は生き残れるが、日本という国(少なくとも国家財政)は滅びることになる。
  それではこの世界不況から脱却する可能性はないのか。一つのきっかけは、米住宅市場の下げ止まりである。住宅在庫が適正水準に戻るには1−2年かかるといわれているので、それから市場が正常化していくであろう。もう一つのきっかけは、金融安定化策が結実して、リスク価格が低下して、金融資本市場が本来の機能を発揮できるようになることである。そのためにも米住宅価格の下げ止まりが必要だ。さらなる可能性は、株式市場で「逆張り」の個人や機関投資家が力をつけて、現在の「絶好の買い場」で市場下落の悪循環を断ち切ることである。
  結論として、これからあらゆる財政金融政策を動員して実体経済の悪化に歯止めをかけなければならない。もちろん極端に金利が低く、財政赤字も大きい日本ができることは限られているが、知恵を絞ってできるだけ乗数効果の大きな財政資金の使い道、税制改革などを考えるべきであろう。

英語の原文: Can Japan Survive and Overcome Global Recession?
http://www.glocom.org/opinions/essays/20081125_ito_can/
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