大竹文雄教授は以下の英文の論文において、日本経済が他の国と並んで、サブプライムローン問題を発端とする米経済の不況の影響を受けているために、米国型の市場主義経済はすべてだめだという意見が日本で広がっていると述べている。このような世論の振れ方は、今回は日本だけではないにしても、日本における市場制度への批判はかなり極端で、市場は悪いと決めつける人が目立っている。
実際に、最近米国のピュー研究所が行ったアンケート調査では、市場競争のとらえ方について、そのデメリットのほうがメリットよりも大きいと考える人の比率は、日本で他の国よりも高く、中国やインド、さらにロシアよりも高くなっている。つまり、日本では市場競争に対する理解を深めて自分たちの制度のメリットを自分たちに言い聞かす努力をしてこなかったのではないだろうか。
この点で、重要な要因の一つは、小中高校での経済教育である。実際に日本の学校の教科書には、需要、供給、価格決定などの市場経済の仕組みの一部は書いてあるが、市場経済のメリットはほとんど書かれていない。一方、独占などの市場の失敗は強調されており、独占はとにかく「悪」ということになっている。事実、この市場競争のメリットの説明が欠けているのは、すべての教科書に共通の問題で、それは学習指導要領に従っているからである。
誰にとっても厳しい市場競争という仕組みを私たちが使っているのは、市場競争のメリットがデメリットよりも大きいからである。経済の世界で市場競争とうまくつきあっていかねばならない現実の中では、市場競争のデメリットばかり強調することは非生産的である。市場競争のメリットを最大限生かすように規制や再分配政策を考えるという、市場競争に対する共通の価値観を私たちは持つべきであると、大竹教授は述べている。
英語の原文:
Understanding Market Mechanism and Economic Education in Japan
http://www.glocom.org/opinions/essays/20081208_ohtake_market/