GLOCOM Platform
debates Media Reviews Tech Reviews Special Topics Books & Journals
Newsletters
(Japanese)
Summary Page
(Japanese)
Search with Google
Home > Summary Page > 詳しい記事 BACK

中国と日本、パート1:変化するイメージと現実

行天豊雄 (国際通貨研究所理事長)


オリジナルの英文:
"China vs. Japan: Part 1 – Changing Perception and Reality"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200302_gyohten_china/


要 旨


世界の中での中国の台頭
中国の影響力がアジアばかりでなく世界的にも目に見えて高まっていることは疑いがない。その理由は、もちろん中国経済が急速な経済発展を遂げているためであるが、その背景として2つの要因が考えられる。その一つは、人口の規模の大きさであり、もう一つは、経済成長のスピードの速さである。


さらに、国内的および国際的なイベントも中国の影響力を増す方向に働いている。経済的には、WTOへの加盟が最近ではもっとも重要なステップであり、また政治的には、江沢民から胡錦涛へとリーダーシップが変わったことがもっとも重要である。さらに2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博も話題になっており、これらのイベントが国際舞台で中国にスポットライトを当てる役割を果たしている。


経済政策では「改革開放政策」を堅持することを謳っており、国内的にも国内外から指摘されている国営企業の問題や法治主義の問題や西部開拓の問題などの解決に向けて努力しているという姿勢は見せている。このような政府の賢明なスタンスが、中国の影響力を高まるのに一役買っていることは確かであろう。


中国の政治的な巧みさ
政治的には、中国は新しい胡錦涛体制のもとで、以前よりも国際的に協力的な姿勢を取るようになり、日本に関しては、いまだに教科書問題や靖国問題がくすぶってはいるものの、両国の関係は最近改善の方向に向かっている。また米国や欧州諸国との関係では対立を避けて、テロ対策では欧米諸国と立場を共有して進めるという、巧みな対応が目立っている。潜在的な対立が多いと思われるロシアに対してさえも、比較的良好な関係を維持しており、このような戦略が、実際の経済発展の成果と相まって、中国の影響力とプレゼンスを国際政治の舞台で高めているのである。


その勢いがアジアに対する対応にも出ており、最近ではアジア危機以前の唯我独尊的な態度ではなく、アジアの一員であることを強調し、協力的な態度で接するようになってきている。その現われが、「ASEANプラス3」のようなアジア域内経済協力への参加である。また東南アジア諸国に対するFTA締結の提案や投資の拡大といったことも、アジアにおける中国の地位を高めている。


その間、日本経済は低迷を続けているので、ここ数年で両国の相対的な関係が劇的に変化してしまった。もちろんそのような変化は、一部分イメージ的なものが先行している面があるが、アジアでもっとも影響力を持つ国は、日本よりも中国と考える人が圧倒的に多くなったことは事実であろう。


アジア諸国の中国に対する不安
しかしながら、中国の発展はどの程度安定したものなのか。はたして中国はイメージだけではなく、実体的に経済発展を確実に進めていけるのであろうか。これに答える上で注意が必要なのは、中国の将来について疑問や懸念、不安が存在するということである。依然として他のアジア諸国は、中国が安価で質の良い製品で自国の市場を荒らしたり、また米国を抜いて世界一の直接投資対象国となった中国が、西側からの投資を吸い上げてしまうのではないかと恐れている。


その結果、アジア諸国としては中国への対応に苦慮しており、ASEANとして共同で中国に対抗しようとする一方で、協力的な姿勢も取って、相互の利益を図ろうともしている。特にこれは、シンガポールやタイのように中国系の人口比率が高い国では、中国と協力していく以外に選択の余地はないといえる。


日本の空洞化現象
日本では、多くの製造業の企業が中国に移動しているので、産業の空洞化が心配されている。特に1985年以来、日本で競争力を失った産業でこのような現象がみられ、それが最近加速していることが懸念される。ただし、これは中国のような発展途上経済が急拡大している場合には、歴史的な必然として起こっていると考えることもできるであろう。


実際に、日本の空洞化はイメージが先行している面もあり、日本の海外生産比率はまだ15%程度で、ドイツでは20%前後、米国では25%程度であることに比べれば、まだ空洞化とはいえない。むしろこれは日本と中国との経済関係が深まっているので、日本から部品や資本財が中国に輸出され、中国からは完成品を輸入するという関係で、それが日本で特にコストが高く競争力を失った産業で起こっているのである。これは産業発展が異なる経済の間で自然に見られる関係といえる。


したがって、日本の中国に対する懸念は、主として日本が中国の変化に対応していないことの現われである。つまり日本における必要な改革のスピードが、中国の経済発展のスピードに追いついていないためである。興味深いことに、米国では中国との関係を深めてはいるものの、米国内でさほど空洞化現象はみられない。それは常に新しい産業が起こって、中国との競争の結果生じた穴を埋めているからである。


日本はこのような米国から学ぶものが大きく、また中国自体からも学ぶべきである。つまり、中国のバイタリティは、経済の底辺を形成する中小個人企業が競争原理によって活性化していることからきている。日本も中国から学んで、市場でもっと競争原理を活用し、規制緩和を進めて、空洞化の不安や懸念を克服する必要がある。問題は相手側にあるのではなく、自分達の側にある。したがって、自分達の努力で問題を解決することが十分に可能なのである。

 サマリーページへ
 Top
TOP BACK HOME
Copyright © Japanese Institute of Global Communications