「若者が割を食う日本社会」
石塚雅彦(フォーリン・プレスセンター専務理事)
オリジナルの英文:
"Young People Getting Short End of the Stick"
http://www.glocom.org/debates/20021218_ishizuka_young/
要 旨
日本は戦後、社会的な対立がなく、世代間のギャップも少ない時代が続いたが、もはやそれは当然のことではなくなった。経済の低迷が長期化している今日、国民一般の気持ちが落ち込み、特に若者の間で将来の自分たちや日本に対する悲観論が広がっている。
この状況は、若者のライフスタイルを受け入れられない中高年層にとっては非常に憂慮すべき困った事態と映っている。もちろんいつの時代にも年寄りは若者の態度を受け入れられないものであるが、日本の今日の状況は、それ以上の要因があるようにみえる。それは、日本の若者の悲観論は、年寄りに対して過度な優遇をする経済社会的な制度から疎外され、その犠牲になっていることから生じている側面があるからである。しかもそれは一般によく知られておらず、メディアでも取り上げられていない。
例えば、雇用の確保や失業対策については、主として中高年層の問題として扱われている。しかし、15歳から21歳までの年齢層では失業率は12%以上となっており、国全体の平均失業率5.5%よりもはるかに高い。大学卒のホワイトカラーの失業がメディアの注目を集めているが、彼らの失業率は5%以下であり、絶対数では380万人の失業者の中の2%以下にしか過ぎない。一方、企業は中高年層の雇用を維持することを社会的に優先する傾向があるので、若者の就職はますます難しくなっている。
特に社員に訓練の機会を与えることが多い大企業が若者を雇わなくなっていることの影響は大きい。そのために、若者は特定の職場に長くいることよりも、職場を次々に変える傾向が強まっており、特にその傾向はサービス業で顕著になっている。これを若者の親の世代が批判したり、嘆いたりしているのが現状であろう。しかし、実のところ、この親の世代の既得権を守り、若者を疎外している経済社会制度に問題があることを、その世代の人たち自身が知らないのである。
それでも日本は、まだ若年層の失業の結果として社会的な不安定性が表面化していないだけ海外よりましである。10代の失業率はすでに15%で、OECD加盟国の平均の17%とほぼ同じ水準まで上昇しているが、まだ犯罪率が急増するという事態には至っていないのが不幸中の幸いといえる。
つまり、今日本で起こっているのは、若者の間での道徳心の低下や無気力さの蔓延といったことではなく、中高年層の既得権を保護するような社会経済的なメカニズムから生じている問題であることを認識すべきである。このような状況は、日本にとって長期的に人々のやる気をなくさせ、生産性を低下させて、コストを高めることでマイナスに働くだけであろう。
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