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「経済的、文化的統合:欧州とアジア」

ロナルド・ドーア(ロンドン大学教授)


オリジナルの英文:
"Integrating: Economically and Culturally"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200212_dore_integrating/


要 旨


先日コペンハーゲンで開催されたEUサミット会議で最も大きな論点となったのは、中東アジアの10カ国を加盟させることよりも、トルコ加盟についての交渉を始めるかどうかということであった。それについて議論が分かれたのは、それが複雑な背景を持っているからである。


トルコ固有の問題として、トルコ人の大部分が欧州ではなくアジアに住んでいることを考慮すると、地理的にどこまでEUに含めるかが問題となる。また、トルコの人当たり所得はドイツの約10分の1で、それほどの格差をEUとして認められるかという問題もある。


この2番目の問題は、東アジアの統合を考える場合にも考慮すべき点であろう。例えば、日本とラオスやミャンマーの間の所得格差は、ドイツとトルコの間以上に大きい。それ以外にも欧州での交渉において、東アジアも関心を持つべき点が2つほどあった。


第1点は、米国の影響である。トルコは最初からNATOの一部で、その基地は米国にとってキューバ危機から現在の対イラク包囲網に至るまで重要な役割を果たしているため、米国はトルコがEUに入ることを後押ししている。つまり、東アジアについても米国は、日本と韓国という軍事的な同盟国があり、中国という「戦略的な競争相手」があることを考えると、地域統合ついての強い影響力を行使するであろうことが予想される。


第2点は、文化的な問題である。トルコはイスラム国家であるが、その一方で欧州が経済的な概念を超えた存在であるとすれば、それは何か住民にプライドと忠誠心を惹起する文化的な伝統を持つべきあろう。それはヨーロッパにおけるギリシャ・ローマとキリスト教文明の伝統に他ならず、それをトルコは持っていない。


東アジアでは、欧州とはまったく歴史的にも動機的にも異なっているが、少なくとも自由貿易地域を作る動きはかなり以前から続いている。ここで、所得格差、文化的同質性、米国の影響といった問題を思い起こさせたのは、去る11月のプノンペンにおけるASEANプラス3の会議であった。この会議で印象深かったのは、中国と日本の関与の仕方であった。


その会議では、だれもが総合的な経済的パートナーシップの原則には賛同し、日本とASEANはその原則を確認する共同宣言を発表した。その宣言では、ASEANの対日輸出額の予想などについては細かい数字が載っているものの、いかにそれに到達するかについてはあいまいなままである。共同宣言は単に、枠組みについて合意しただけで、それを実現する手立てについては触れていない。


一方、中国とASEANは経済協力の枠組みに関して合意したが、それは日本のものよりはるかに詳細で、先進ASEAN諸国とは2010年までに中国と自由貿易地域を形成し、さらに2015年まではそれにラオス・カンボジア、ミャンマーを含む交渉を完了するというタイムテーブルが付けられていた。さらに農業問題では中国が先に関税率を引き下げて、より弱い立場にある国に配慮するという点を強調していた。


これらの2つの宣言文の差は、今の時代をよく反映したものといえる。10年前であれば、アジアでの経済協力の体制を構築するイニシアチブが取れる国は日本しかなかった。この10年間の中国の目覚しい成長と日本の停滞の結果、状況は大きく変わってしまった。むしろ中国がその瞬発力で優位になり、経済統合の中核を占めて、日本や韓国は影響力を行使できなくなる可能性がでてきた。ここでは、農作物の輸入を通じて中国が、経済と文化的同質性の問題に答えようとする姿勢がうかがえる。つまり、儒教的な中国がその東南アジアへの影響力のもとに、将来の自由貿易地域に入るイスラム国家、仏教国家、キリスト教国家の農村地帯に配慮を示しているともいえる。


日本がそのような展開を憂慮すべきかどうかはまだ分からない。日本が「アジアの孤児」になる可能性はまだまだ遠い先のことである。しかし、経済的な統合は、政治的な統合へと進み、中国が支配的な東南アジアが出現すれば、日本はさらに米国に依存せざるをえなくなるかもしれない。もし日本が東アジアの経済統合の一翼を担う選択を残しておきたいならば、中国の姿勢のように、対等互恵の原則よりも、強い者が弱い者に譲歩することを考えるべきである。つまり、日本とASEANで合意した原則についての枠組みの交渉を、東南アジアの最貧国に対して「援助よりも貿易」の原則を適用する努力を調整するために中国と真剣な交渉を行って補完する必要があろう。

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