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北朝鮮の態度を変えさせるには

グレゴリー・クラーク (リサーチ・ジャパン・オフィス代表、多摩大学前学長)


オリジナルの英文:
"Changing Pyongyang's Ways"
http://www.glocom.org/debates/20030203_clark_changing/


要 旨


1月15日にGLOCOMプラットフォームに掲載されたグレゴリー・クラーク著「北朝鮮こそ被害者」(http://www.glocom.org/debates/20030115_clark_pyongyang/)では、北朝鮮の核問題への対処を誤った米国を非難したが、それについて2つのことを述べたい。第1は、思ったよりも海外での反応が良かったこと、第2は、やはり北朝鮮体制は直しようもないほど邪悪な性格を持っていると信じている人が多くいるということである。


確かに北朝鮮は、どの独裁国家にもありがちな被害妄想を持っており、事実となる情報を独占している。多くの人がスパイ容疑で拷問にかけられたり殺されたりしており、公式な思想から逸脱するものは罰せられ、リーダーを常に讃えいなければならない。


しかしこの邪悪さは本当に直しようもないのだろうか。冷戦の頃には共産主義が不可逆的であるとされ、西側は妥協せずに攻撃することが必要と考えられていた。そのために1960年代のインドシナ半島の悲劇が起こり、冷戦も早期終結の機会を逸してしまった。実際に、50年代後半にソ連が米国と緊張緩和を求めたにもかかわらず、米国の強行派が敵対的態度を取り続けたために、ソ連も強硬派が台頭して、その後20年も冷戦が続いてしまった。


1980年代にはゴルバチョフのもとで、ソ連は自由化と緊張緩和を進めようとしたが、再び西側の強硬派に阻まれてしまった。そしてゴルバチョフが改革によってソ連を解体したとき、それは西側の強行派が「悪の帝国」に勝利したといわれた。しかし、実際は全く逆のことが起こったのである。ゴルバチョフは共産主義体制の産物に他ならないが、それでもソ連を解体したことは、共産主義が不可逆的であるという主張の誤りを証明した。それは両陣営の強硬派の勝利ではなく、敗北を意味したのである。


これまで北朝鮮が麻薬や暗殺、通貨のスキャンダルに関与していたということは、ショッキングなことのように見える。しかし、CIAや他の西側のエージェントも時には同様のことを行ってきた。北朝鮮が韓国のリーダーや飛行機を狙い撃ちにしたことは、NATOがコソボにこじつけた理由でユーゴを爆撃したことに比べれば、あまりたいしたことのようにはみえない。


北朝鮮が邪悪であるという想定は、過去の朝鮮半島の出来事をバイアスを持って見ている結果といえる。北朝鮮が韓国を1950年に攻撃したことは皆知っているが、それ以前に韓国が北朝鮮に攻撃の脅威を与え、国境紛争を繰り返し、左翼分子と疑られた人々を虐殺したことをどれだけの人が知っているだろうか。あるいは、米国が北朝鮮を「侵略者」と非難したが、その同じ米国は南北朝鮮の間に国境はないと主張し続けたこと、さらにその後の北朝鮮に対する米国の残虐で不必要な攻撃が、北朝鮮の被害妄想を拡大したことを、どれだけの人が知っているだろうか。


確かに、米国の介入が結局、韓国に活発な社会経済をもたらした。しかし、統一した朝鮮も同様に活発な国になっていたかもしれない。1960年には北朝鮮の一人当たり所得は韓国の2倍以上の水準にあった。その後、独裁体制のもとでの経済的悲劇は冷戦の圧力のもとで起こり、それが国際的孤立と今日に続く軍事化をもたらしたのである。


そこで現在にいたるのであるが、1994年にクリントン政権が北朝鮮に核開発を凍結することと引き換えに、いくつかの約束を行った。ブッシュ政権は自分勝手な理由でこの約束を破り、特に国交正常化の約束を無視している。そのような場合は、当然事態は1994年の合意以前に戻ってしまう。しかし、北朝鮮が核開発凍結の約束を取り下げると、--米国がクリントン政権時代の約束に戻れば北朝鮮が再びその凍結を行う見通しがあるにもかかわらず-- 西側の強硬派は非難の声を上げたのである。


幸いなことに、韓国、中国、ロシアの良識的な意見が、多少米国をいさめることに成功した。これで、北朝鮮の安全を保証することが考慮されるであろう。しかし新しい韓国の大統領が指摘しているように、しばらくは不安定な状況が続き、ワシントンのタカ派は「疑わしきは爆撃せよ」という政策を行うかもしれない。


ここで北朝鮮のリーダーである金正日に触れておこう。彼はゴルバチョフではなく、時として強硬派に取り込まれ過激な行動を承認したが、しかしほとんどすべての北朝鮮内部からの情報によれば、彼はプラグマティストで経済の自由化を望み、外部世界に窓を開けようとしている。彼の行動は中国のリーダーに匹敵するものがあるが、中国のリーダーは、実は以前は「不可逆的な共産主義の邪悪さ」という西側の決めつけの犠牲になっていたのである。


このような状況で、強硬派にまた対決姿勢を許して、北朝鮮をさらに40年間も残酷なスターリン体制のもとに置くか、あるいはその行動は非難しつつも北朝鮮を国際社会に引き出す努力をするか。韓国はこの問いに自分たちの答えを見つけた。彼らは我々よりも自分達の北の隣人をよく知っている。世界は彼らの言い分に耳を傾けるべきである。

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