「近視眼的見方:日本問題の核心」
薬師寺泰蔵(慶応義塾大学教授)
オリジナルの英文:
"Myopia: the Crux of the Japanese Problem"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200210_yakushiji_myopia/
要 旨
1980年代と1990年代の初期までは、日本経済は米国にとって恐るべき競争相手と考えられていたが、日本にとってそのような古き良き時代は終ってしまった。その後日本では、バブル崩壊によって銀行に多額の不良債権が残り、又これまでにないほどの失業やデフレが生じている。さらに日本の製品の国際競争力も落ちてきており、2002年のIMDの世界競争力ランキングでは30位まで下がってしまった。日本の主要企業は、国内に投資する代わりに、中国などに生産拠点を移しており、それが日本国内の空洞化を招いている。
このような現象は、スタンフォード大学のネイサン・ローゼンバーグ教授の「蛙飛び」の仮説によって説明できる。この仮説によれば、先行の企業はすでに既存の設備に投資しているので、新しい技術を使って投資する余裕がないのに対し、新規参入する企業は、新しく先端的な設備投資を行なえる可能性が高いので、先行している企業を「蛙飛び」のように飛び越していけるという。
この仮説は既存の大企業がなぜ凋落していくかを説明しているが、その一方で、日本企業が中国のような海外に投資をして活力を保つ現象も説明できる。つまり、これまで投資していない発展途上国では、より効率的な企業活動が可能であるために「バーチャルな蛙飛び」の現象が起き、そのような戦略を取った企業は競争力を保つことができるのである。そのため、日本の多くの企業は海外における事業では相対的に好調さを保っているが、国内市場では低迷しているように見えてしまう。これが日本問題の核心である。国内で問題が多いのは製造業ではなく、銀行や流通といったサービス部門である。したがって、以下の2つの方策が必要であろう。
第1は、サービス部門、特に金融システムの改革であり、第2は、バーチャルなGHQ (総司令部)の設置である。後者は、第2次大戦後の占領期に設置されたGHQ(総司令部)の政策を遂行するもので、戦争で古い設備が破壊されたことと、総司令部によってそれまでの経営者や役人がパージされ、新しい人材が登用されたことが戦後の日本の経済的な成功をもたらしたという事実から学んで、バーチャルなGHQ政策を取ることが求められる。つまり、まず市場を開放して日本の設備を海外の投資家に買い取ってもらい、新たな投資が起こるような環境を整える。さらに人材については、日本の高等教育制度を改革して、よい人材を育てることが日本の国際競争力を復活させるために必要である。
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