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国連の歴史に残る劇的な週

ロナルド・ドーア (ロンドン大学教授)


オリジナルの英文:
"A Dramatic Week for the History of the United Nations"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200303_dore_dramatic/


要 旨 (本論文は3月16日に書かれたもの)


国連の歴史に残る劇的な一週間であった。

昨年の秋に、米国の外交軍事政策をもっとも強く推進しているラムズフェルド国防長官とチェイニー副大統領は、イラク攻撃に青信号を与えられたと思い込んだようであるが、ブッシュ大統領はパウエル国務長官やブレア英国首相に説得されて方針を変え、単独行動を遅らせて、軍事行動を正当化する国連安保理決議を求めた。当時不満を隠さなかったタカ派も、今やさぞかし満足であろう。


現時点でのワシントンの支配的なムードは、「時間を無駄にした。国連への働きかけは、かえってフランス、ドイツ、ロシア、中国に、我々を批判する機会を提供しただけで、大失敗だった」というものである。


最後まで何とか開戦正当化決議案を通そうと努力したのは英国であった。英国が今回の戦争に加担することに反対する世論が高まり、議会の状況も厳しさを増している。ブレア首相は、イラクの大量破壊兵器を撲滅することが、人類のための大事業と思っているようであるが、反対派はそれが単に米国という覇権国の一方的な独り善がりでしかないという。それでもブレア首相は、疑いなく第2決議案が通り、仮に成立しない場合は、それは(フランスの)不合理な拒否権によってであるので、無視していいと言っていた。


ところがふたを開けてみると、フランスの拒否権どころではなく、安保理事会で決議案が成立するのに必要な9票でさえも集まらないという事態になってしまった。その後の電話攻勢や英米間での意見調整などを経て、いよいよブレア首相も腹を固めたようである。正当化決議の有無にかかわらず戦争に参加し、早期戦争終結に政治生命をかける。


今週にも予想される戦争は、様々な次元で評価することができる。第1の次元は、戦争の直接的な結果についてである。イラクの民主主義的な再建を期待する人もいるが、より確実に起こることは、大量破壊、大量殺戮、クルド人や他の少数民族の主張をめぐる対立、石油の利権をめぐる紛争、テロ組織の拡大努力、イスラム原理主義の激化によるヨルダンやサウジアラビアへの脅威などである。


第2の次元は、国際的な友好関係や同盟関係への影響である。米国の抱いたフランスやドイツに対する憎悪が、NATOにどれだけ後遺症を残すか。あるいは、フランスとイギリスの間の亀裂が、EUに今後どのような悪影響を与えるか。


第3の次元は、これが世界秩序の構築に与える長期的な影響についてである。国連が具現化しているのが法に基づいた世界秩序構築への努力であるが、それへの打撃は大きい。はたして国連は、米国の指導的役割を必要とする機関ではなく、米国の覇権主義の力に対する制限を加えられる唯一の機関になるかどうかが問われている。


第4の次元は、米国自身への影響である。現在のムードは変わらないのか。はたして、圧倒的な力があれば、「正当性」はあくまで主観的な概念で、「世界の世論」や国際機関の支持などは無視していいのか、それともそれが反省されるのか。注目に値する。

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