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イラクの教訓:武力行使に代わる方法

グレゴリー・クラーク (リサーチ・ジャパン・オフィス代表、前多摩大学学長)


オリジナルの英文:
"Lessons of Iraq: Alternatives to Pummeling"
http://www.glocom.org/opinions/essays/20030403_clark_lessons/


要 旨


過去にベトナム戦争、そしてマングース作戦(米国によるキューバ攻撃の口実)を経験した後では、今回米英がイラク攻撃を正当化している言い分は、狂信的な軍国主義者か未熟な子供達しか信じようとしないだろう。


比較的分かりやすいとされているのは、イスラム過激主義者と反米テロリストに対抗するためという理由であるが、イラクは中東イスラム国家の中では宗教色が弱い国である上に、最近の米国に対するイスラム過激派による攻撃には関与していない。


同様におかしな言い分は、中東に民主主義を広めることが米国の目的であるというものである。民主主義というのは自由選挙のことであるが、現在どのイスラム国家においても、本当に自由な選挙を行えば、ほぼ間違いなくイスラム過激派政党が選ばれるであろう。米国の友人と言える中東諸国は、ほとんどすべて非民主国家であり、比較的民主的なイランは米国の敵としてリストされている。


さらに攻撃の理由として挙げられているのは、侵略を志向し、毒ガスを用い、敵を処刑するような残虐な国家に世界は反対しなければならないというものである。このような言い訳を信じるのは、ブレア英国首相のような単細胞人間だけであろう。なぜなら多くの人が指摘している通り、まさにイラクがイランを侵略し、毒ガスを使用し、大量処刑を行った時、そのイラクを支持したのが他ならぬ米英だったからである。


以前イラク政権は嫌われていたが、今回の米英による野蛮な行為に対する憎しみによって、イラク国民および多くの中東諸国の人々がイラク政権を支持する側に回ってしまったのは皮肉なことである。


米英に対する憎悪はイスラム社会にとどまらない。良識のある人であれば、西側の巨力な二ヶ国が、恐ろしい破壊兵器をもって、一つの小国を打ちのめすのを見て喜ぶはずはない。その一方で、ラムズフェルド米国防長官は、イラク側がゲリラ戦術をとって抵抗するのは不当だと非難している。すでに西側諸国でも、今回の米軍の電撃作戦と政府高官の言い分を、1939年のナチスドイツと比較してみるという動きが出ているほどである。しかしそう言っても、自らの国民を大量に殺戮したり拷問したりしたイラクのような政権にどう対応すべきかという問題が残ることは確かである。


国際法および国連憲章は、当然のことながら正当な理由なく他国を攻撃することを非難している。しかし、自国の場合を含めて、政権が非道徳的に振舞うことがないようにする方法を考えなければならない。


現代の我々の体制の下では、デモはほとんど効果がない。当時の自らの経験を踏まえ、私自身ベトナム戦争初期の反戦運動のほとんどは逆効果であったと信じている。反戦運動は、権力者たちに最終的な戦闘の勝利こそが彼らの正しさを示し、反戦運動が間違っていることの証明になるという期待のもとで、間違った政策をさらに強引に推進させる効果しか持たなかった。


反対運動としては、政策当局の事務所の周りに、テントや仮設小屋を建てた方がはるかに効果を発揮する。そしてそこに何年も、あるいは何十年も座り込んで、自国の名でいかなる悪事が行われているかを指摘した資料などを黙々と配り続ける覚悟がいる。このような行動が、何よりも権力を志向する者たちを辱め、国民の良心に訴える。


それと同様に、国際的な場では、制裁措置や国連決議はわずかな効果しか持たない。そうではなく、問題のある政権は、最初から除け者扱いにされるべきである。そのような国の大使館は閉鎖し、政府関係者は国際的な場での行動のみならず、そもそも外国へ出かけることさえも否定されるべきである。この「除け者政権方式」に近い政策は、人種差別を行っていた南ア共和国に対して有効に作用した。


ここで問題は、どの政権が除け者にされるべきかを決定する方法である。イラク問題で明らかになったように、西側諸国の政権担当者に決定を委ねるわけにはいかない。彼らは必然的にその時々のひねくれた国益に基づいて判断するからである。


この点で、アムネスティ・インターナショナルは良い世話役となり得る。この組織は、政府による非道な行為を克明に記録しているので、各政権を評価する手法を開発できるであろう。たとえばレベル1は反体制派や少数派を排斥する政権、レベル2はそういう人達を正当な理由なく投獄する政権、レベル3は拷問を行う政権、等々。


世界中の平和活動家は、これに照らして自らの抗議活動を評価できるようになる。最初は手紙や出版物による活動を行い、次の段階はそれら問題となった国々の大使館の周辺で反対運動を行う、等々。


良識のある政権、たとえば北欧諸国が参加することもできる。オーストラリアがベトナム戦争に参画していた際に、スウェーデンからの武器の購入を拒絶されて、オーストラリア政府がショックを受けたことを、私自身鮮明に記憶している。


このような方法が十年ほど前から採用されていたならば、少なくとも今日のイラクをめぐる茶番劇は回避できたかもしれない。

(日本語訳:浦部仁志)

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