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「不良債権処理の前にデフレ脱却策を」

篠原三代平(一橋大学名誉教授)


オリジナルの英文:
"Anti-Deflation Policy Needed Before Disposition of Non-Performing Loans"
http://www.glocom.org/opinions/essays/200210_shinohara_anti


要 旨


いまだ景気回復の成果なし
小泉内閣が登場してから約1年半が経過した。「構造改革なくして景気回復なし」と言っていたが、実際にはその成果はほとんど上がらなかった。実は、構造改革の一つである不良債権の処理が問題である。これを腕力的に推し進めようとすればするほど、その結果、後追い的に生じる株価の低迷がさらに不良債権を増大させる。


有効需要への配慮なき諸政策
確かに、個々の企業、銀行の不良債権をなくそうとすることは結構だが、その努力は以下のような結果をもたらす。(1)不良債権を売却・処理すれば、株式市場への新規供給を増やすことになり、かえって株価を押し下げる、(2)また企業を倒産に追い込むことも有効需要を押し下げるし、(3)不良債権の「放棄」が行われた場合も、放棄した企業の収益は下がる。マクロ的には有効需要をいずれも押し下げる結果となる。これまで金融庁がたどってきた道は、ミクロ的、個別企業的な観察にとらわれすぎて、マクロ的観点に欠けていた。現在の政治家、役人、そして評論家たちは、有効需要への波及効果を常に念頭に入れたうえで、こうした問題の処理を考えてもらいたい。


消費税に関する提言
消費税に焦点を当てたデフレ対策を考えるべきである。例えば4年間は消費税をゼロにする。その代わり、5年目から消費税を一挙に15%に上げる措置をとると、消費の「異時点間代替」が刺激され、確実に消費水準を押し上げることになる。しかも、仮に5年後に消費税が15%に引き上げられて現在の5%の3倍になれば、今の消費税収10兆円が、一挙に30兆円前後に引き上げられるから、近い将来の財政赤字削減が可能になり、一石二鳥の効果を発揮する。


マネーサプライ構造の変化
金融面では、1990年代初頭からマネーサプライの構造に大きな変化があった。特に、「準通貨」(定期性預金)のうち「一般法人」の部分は、90年代に入ると、その変化率がマイナス0〜10%に落ち込んだ。これは株式・土地市場の低迷、設備投資の停滞を反映しているが、同時にそれらの不振をもたらしたともいえる。さらに2002年に入ってから準通貨の一般法人部分が前年比でマイナス20%を超えて低下した。これは明らかにペイオフ解禁に対する不安が一般化したためで、ペイオフ解禁は日本経済が再生の自信を復活する時期まで延期すべきである。


成長に不可欠な物価上昇
消費者物価であれば年率で3〜4%、卸売物価であれば4〜5%程度の上昇率は、日本経済を成長軌道に乗せる上で不可欠である。ただし、それは持続的なインフレではなく、3〜5年程度の期間に限定しているので、正確には「限時的リフレ政策」と呼ぶべきものである。不良債権処理の努力のみが先行して、公的資金がその後を追うだけというのは、ただデフレ的帰結を国内に残す結果となる。日本経済はすでに「失われた10年」を無駄にした。それを「失われた15年」にするだけに終ってはならない。

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